「あつい…!」
夏ど真ん中の昼間は御天道様がかんかん照りで、蒸し暑いことこの上ない。
ただ暑いだけならばまだしも、湿気まであると余計暑苦しくて仕方がない。
「夏だからな」
そんな分かりきったことを言うこいつは全然暑そうではなく、寧ろ涼しげだ。昔からそういうやつで、暑い暑いと騒いでいるのはいつも自分ひとりだけだ。
「クーラー…」
夏休みなのは学生だけで、親は仕事の日々。日中に家にいるのは息子ひとりとあれば、クーラーの使用許可など出るわけもない。扇風機を独り占めすれば充分だろうと言われている。親はこいつがいることを知らないのだからそれも仕方がないと言えばその通りだ。
「扇風機で我慢しろ」
そして、それを知っているこいつは容赦がない。うちの方針は昔から変わらないからだ。
扇風機では限界があることを知らないのか。扇風機の前で声を出すのを楽しむほど、子供ではない。
「夜になったらいくらか涼しくなる」
それはそうだろう。そんなことは百も承知だが、今この瞬間の暑さから逃げる方法ばかり考えている。
冷凍庫の扉を開けて、中に入っていたアイスを取り出して頬張る。
今の暑さを取り急ぎなんとかするにはこれが一番効果的だ。
「なぁ、星見に行かね?」
天の川とはいかなくても、この時期の星空は綺麗だ。本当は冬の方が空気が澄んでいて綺麗だというが、冬に星を見ようとは思わないところを考えると、夏の星空が好きなんだろう。
「今日は綺麗に見れるってさ」
そんなことを、朝のニュースでニュースキャスターが言っていた。
アイスを齧りながら視線を向ける。
なんて、言うだろうか。
いや、考えるだけ無駄だ。
こいつは、必ずこう言う。
「行こっか」
いつもと同じ顔で笑いながら言った。
「…涼しい」
「川の近くだしな。川のせせらぎもいい感じだ」
星見をするならばここが一番、という取って置きの場所は昔から変わらない。視界が開けていて、高い建物がなく、寝転びながら星空を一望できるのはこの辺りではここだけだ。林というのか、森というのか、ここは緑に囲まれていて、とても居心地がいい。幼少期に遊び回っていた頃から何も変わらない、それがとても気に入っている。
川のせせらぎに、虫の声、花が揺れる音。
喧騒のない静かな空間。
「………いつまで、いれんの…」
自分で思ったより、小さい声になってしまった。本当に呟くように、小さな声だった。それでも、こいつには多分聞こえてた。
「お前が望むまでずっと」
静かにそう呟く。
本当に、本当に望むまでずっと一緒にいれたら、どれだけいいだろう。
どれだけ、それを望んだだろう。
でも、現実は甘くないことを知ってしまっている。知らない子供のままでいたかった。
「ほんとに?」
縋るように声を出す。
こいつの眼を見ていたい。
こいつの顔を眼に焼き付けたい。
こいつの全てを、刻み付けたい。
「…ごめんな」
眉を下げ、困ったような顔をして、謝られた。
謝ってほしいわけじゃない。
そんなこと、望んでないんだ。
謝られたら、そんなことを言われたら、一気に涙が溢れそうになってしまう。
たった一言、その一言でこんなにも心動かされる。
「ずっと、見てるよ。お星様になって」
それは、小学三年生のとき、こいつの母親がこいつに最後に言った言葉だ。
わかっている。
いつまでも続かないこと。
どうしようもないこと。
もう、二度と逢えないこと。
「…おいてくなよ…」
そう告げた瞬間、流れ星が通ったことを知る術はなかった。
*----------*----------*----------*----------*----------*
こちらもお世話になっている、ヤヒコさんへ捧げました。
お題は「星、扇風機、せせらぎ」でした。
ヤヒコさんが思った以上に気に入ってくださって、漫画にもなっています。
タイトルはヤヒコさんが漫画にしてくださったときのタイトルをそのまま拝借。
ヤヒコさんの素敵漫画はこちら↓
夏の星と逢瀬を
夏ど真ん中の昼間は御天道様がかんかん照りで、蒸し暑いことこの上ない。
ただ暑いだけならばまだしも、湿気まであると余計暑苦しくて仕方がない。
「夏だからな」
そんな分かりきったことを言うこいつは全然暑そうではなく、寧ろ涼しげだ。昔からそういうやつで、暑い暑いと騒いでいるのはいつも自分ひとりだけだ。
「クーラー…」
夏休みなのは学生だけで、親は仕事の日々。日中に家にいるのは息子ひとりとあれば、クーラーの使用許可など出るわけもない。扇風機を独り占めすれば充分だろうと言われている。親はこいつがいることを知らないのだからそれも仕方がないと言えばその通りだ。
「扇風機で我慢しろ」
そして、それを知っているこいつは容赦がない。うちの方針は昔から変わらないからだ。
扇風機では限界があることを知らないのか。扇風機の前で声を出すのを楽しむほど、子供ではない。
「夜になったらいくらか涼しくなる」
それはそうだろう。そんなことは百も承知だが、今この瞬間の暑さから逃げる方法ばかり考えている。
冷凍庫の扉を開けて、中に入っていたアイスを取り出して頬張る。
今の暑さを取り急ぎなんとかするにはこれが一番効果的だ。
「なぁ、星見に行かね?」
天の川とはいかなくても、この時期の星空は綺麗だ。本当は冬の方が空気が澄んでいて綺麗だというが、冬に星を見ようとは思わないところを考えると、夏の星空が好きなんだろう。
「今日は綺麗に見れるってさ」
そんなことを、朝のニュースでニュースキャスターが言っていた。
アイスを齧りながら視線を向ける。
なんて、言うだろうか。
いや、考えるだけ無駄だ。
こいつは、必ずこう言う。
「行こっか」
いつもと同じ顔で笑いながら言った。
「…涼しい」
「川の近くだしな。川のせせらぎもいい感じだ」
星見をするならばここが一番、という取って置きの場所は昔から変わらない。視界が開けていて、高い建物がなく、寝転びながら星空を一望できるのはこの辺りではここだけだ。林というのか、森というのか、ここは緑に囲まれていて、とても居心地がいい。幼少期に遊び回っていた頃から何も変わらない、それがとても気に入っている。
川のせせらぎに、虫の声、花が揺れる音。
喧騒のない静かな空間。
「………いつまで、いれんの…」
自分で思ったより、小さい声になってしまった。本当に呟くように、小さな声だった。それでも、こいつには多分聞こえてた。
「お前が望むまでずっと」
静かにそう呟く。
本当に、本当に望むまでずっと一緒にいれたら、どれだけいいだろう。
どれだけ、それを望んだだろう。
でも、現実は甘くないことを知ってしまっている。知らない子供のままでいたかった。
「ほんとに?」
縋るように声を出す。
こいつの眼を見ていたい。
こいつの顔を眼に焼き付けたい。
こいつの全てを、刻み付けたい。
「…ごめんな」
眉を下げ、困ったような顔をして、謝られた。
謝ってほしいわけじゃない。
そんなこと、望んでないんだ。
謝られたら、そんなことを言われたら、一気に涙が溢れそうになってしまう。
たった一言、その一言でこんなにも心動かされる。
「ずっと、見てるよ。お星様になって」
それは、小学三年生のとき、こいつの母親がこいつに最後に言った言葉だ。
わかっている。
いつまでも続かないこと。
どうしようもないこと。
もう、二度と逢えないこと。
「…おいてくなよ…」
そう告げた瞬間、流れ星が通ったことを知る術はなかった。
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こちらもお世話になっている、ヤヒコさんへ捧げました。
お題は「星、扇風機、せせらぎ」でした。
ヤヒコさんが思った以上に気に入ってくださって、漫画にもなっています。
タイトルはヤヒコさんが漫画にしてくださったときのタイトルをそのまま拝借。
ヤヒコさんの素敵漫画はこちら↓
夏の星と逢瀬を
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