「あいつらから連絡来た」
夕食の時間の世間話のように話すと、雪風は一瞬ぽかんとした顔を見せて手を止めていた。
そんなに驚くことかと思っていたが、雪風にしては衝撃だったのか驚いたように呟く。
「ひーたんのこと覚えてたんだ」
失礼な、と思ったがそれは自分でも少し驚いたことだった。
見えすぎる雪風の隣にいたからなのか、関わった時間が長かったからなのか、はたまた魔女の仕業か、実際のところどうかは分からないが、連絡が来たことは確かだった。
「久しぶりに会わないかって」
「結婚するのかな」
雪風の言葉に逆に驚かされた。思わず言われた言葉を繰り返す。
「結婚って」
「同棲してるんでしょ?うちもだけど」
「うちは同棲じゃなくて同居」
「同棲」
雪風は同棲だと言って譲らないが、同棲でも同居でも大した差はない。そして今はそんな話ではない。
突如高校時代の友人から連絡を受けたが、お互いに連絡をマメに取っていたわけだはなかった。そこで連絡してきたということは、何かあると考えてもおかしくはない。
ただ雪風の言う結婚かどうかはさておきだ。そもそも友人たちは法律的に結婚が出来ない。
「書類を書かない結婚なら、本人たちの心持ちだしね」
「結婚だって決め付けんなよ」
結婚だと言ったのは雪風で本人たちはそんなことを言っていなかった。それならば変な詮索はするべきではない。
雪風は止めた手を動かして目の前の秋刀魚を摘んでいる。
秋が近付き秋刀魚が美味しい季節になったから出したが、満足そうに頬張っているところを見ると間違いなかったようだ。
「お前いつなら空いてる?」
「日程決まってないの?」
「候補いくつか出してあった。こっちの日程に合わせるとか言ってたし、俺は休日出勤ねぇから実質お前の予定で決まるな」
届いた連絡には確かにそう記されていた。
この日程のどれかで、そのどれかはこちらが決めていいと。雪風の予定も確認して欲しいと。
だがその連絡への返事はまだしていない。雪風にも確認する、の一言さえも。
正直なところ、雪風が会いたがるかは分からなかった。
雪風はもううさぎではない。うさぎとして接していた相手に今の雪風が会いたがるかどうか、どういう反応をするか、そういったことが何一つ読めなかったからだ。
雪風が会いたがらなければ、どの日程も雪風は難しいから一人で行くと連絡しなければならない。
二人の時の雪風は半分うさぎのようにしているが、家を一歩出て一人になるとうさぎの片鱗すら見せない。徹底的に新しい南野雪風をしている。いや、本来の南野雪風と言った方が正しいのかもしれない。
本当はそちらの方が楽で、二人の時は変に気を遣っているのかもしれないが、どちらであっても雪風として接すれば問題ない。
雪風は十八年間の全て捨てた。捨て損ねたたった一つのもの以外の全てを。
雪風が無理をしないように、嫌なことを笑顔で受け入れてしまわないように、傍に居る者として確認は怠らない。
「みんなでわちゃわちゃするのも楽しそうだよね」
ぽつりと呟いた雪風の真意は掴めなかった。
「今すぐじゃなくていいし忘れてもいいからな」
そう告げて秋刀魚を摘まむ。口に放り込むと秋の味覚らしくいい香りが鼻を刺激した。
やっぱり秋は秋刀魚が美味い。
「お前、うさぎを拾わなくていいからな」
気を遣って半分うさぎでいる必要はないと、うさぎを捨て切りたいならばそれでもいいと、そういうつもりで言った言葉だったが、それを聞いた雪風は持っていた箸と茶碗を置いて勢いよく立ち上がった。
その顔が少し歪んでいるように見えた。
「俺のこといらなくなったのっ……!?」
「そんなこと言ってねぇだろ。座れ」
「だって」
「無理すんなって言ってんの」
会いたくなければ会わなくてもいい。
うさぎをもうしたくないならしなくてもいい。
いい加減自由に生きていいんだ。
半分うさぎでいることが負担ならやめてもいい。
「ひーたんのうさぎは俺だけ。そうでしょ?」
「そうだな」
雪風の問いに即答する。
うさぎは雪風だけ。
他の誰もうさぎにはならない。他の誰かをうさぎと呼ぶこともない。
『俺のうさぎ』は雪風ただ一人だ。
「……みんなで、仲良くわちゃわちゃしたい……」
「そうか」
「同窓会とか、そんなの無縁だと思ってたけど、四人でならやりたい……」
「わかった」
「ひーたん」
「俺は、お前が無理なく過ごせるならそれでいい。うさぎでもうさぎじゃなくても。『雪風』をちゃんと生きてるならいいんだ」
そこまで言って、やっと雪風は椅子に座った。
言いたいことが伝わったらしい。
夕食と風呂を終えてソファーで寛いでいる雪風の隣に座ると、雪風が肩に頭を乗せて来た。甘えているのだと分かり頭を撫でてやると笑って喜んだ。
その様子を見てやっぱり耳がない方が好きだなと改めて実感する。頭を撫でやすいし、撫でて雪風が喜ぶならばそれはいいことだ。
頭を撫でていると雪風が動いた。膝の上に乗られて身体が向かい合わせになる。
最近よくする体勢で、雪風は今はこの体勢がお気に入りらしい。少し前までは足の間に入るのがお気に入りだったようだが最近はよく向かい合う。
「日程、俺もどこでもいいよ」
「分かった。言っとく」
「ほんとはちょっと楽しみ」
「そうか、よかったな」
「ひーたん、すき」
「はいはい」
雪風が楽しそうに言うから少し安心した。
二人の用は十中八苦結婚の報告ではないだろうが、そうでなくても会って話すことは特別だ。しばらく会えていない友人たちの近況報告を聞いて、こちらも近況報告をする。
同棲しているのかと聞かれたら同居だと答えるが、ベッドが一つしかないことを考えると同棲なのかもしれない。
まあいい。どうせ雪風は同棲だと答えるだろう。それをいつも通り同居だと訂正して、昔を懐かしむような会にすればいい。
『お前のうさぎが』と言われたら、笑って『俺のうさぎが』と言うだろうけれど。
みんなで仲良くわちゃわちゃ、楽しみだな、雪風。
*----------*----------*----------*----------*----------*
よるこさんのお宅の「うさぎコンビ」から。
一年ぶりなので、まずくまを読むところから。くまを読んでうさぎを読んで、自分が書いた過去作を読んで、よるこちゃんのTwitterも探しました。
過去にあった同窓会の話の少し前くらいに思ってくれればOKです。
お題は「仲良くわちゃわちゃ」だったので、普通に同窓会を書けばよかったと後から気付きましたね。
一年ぶりに書いたので、ちゃんとうさぎコンビになってるか不安だなぁ……
毎年参考文献を読み直すから、来年のために今から参考文献をしっかりストックしておきたいですね。
よるこちゃん、大変なご時世だけど、今年もお誕生日おめでとう!
今年は遅くなってごめんね。無理しすぎないようにしてね。
夕食の時間の世間話のように話すと、雪風は一瞬ぽかんとした顔を見せて手を止めていた。
そんなに驚くことかと思っていたが、雪風にしては衝撃だったのか驚いたように呟く。
「ひーたんのこと覚えてたんだ」
失礼な、と思ったがそれは自分でも少し驚いたことだった。
見えすぎる雪風の隣にいたからなのか、関わった時間が長かったからなのか、はたまた魔女の仕業か、実際のところどうかは分からないが、連絡が来たことは確かだった。
「久しぶりに会わないかって」
「結婚するのかな」
雪風の言葉に逆に驚かされた。思わず言われた言葉を繰り返す。
「結婚って」
「同棲してるんでしょ?うちもだけど」
「うちは同棲じゃなくて同居」
「同棲」
雪風は同棲だと言って譲らないが、同棲でも同居でも大した差はない。そして今はそんな話ではない。
突如高校時代の友人から連絡を受けたが、お互いに連絡をマメに取っていたわけだはなかった。そこで連絡してきたということは、何かあると考えてもおかしくはない。
ただ雪風の言う結婚かどうかはさておきだ。そもそも友人たちは法律的に結婚が出来ない。
「書類を書かない結婚なら、本人たちの心持ちだしね」
「結婚だって決め付けんなよ」
結婚だと言ったのは雪風で本人たちはそんなことを言っていなかった。それならば変な詮索はするべきではない。
雪風は止めた手を動かして目の前の秋刀魚を摘んでいる。
秋が近付き秋刀魚が美味しい季節になったから出したが、満足そうに頬張っているところを見ると間違いなかったようだ。
「お前いつなら空いてる?」
「日程決まってないの?」
「候補いくつか出してあった。こっちの日程に合わせるとか言ってたし、俺は休日出勤ねぇから実質お前の予定で決まるな」
届いた連絡には確かにそう記されていた。
この日程のどれかで、そのどれかはこちらが決めていいと。雪風の予定も確認して欲しいと。
だがその連絡への返事はまだしていない。雪風にも確認する、の一言さえも。
正直なところ、雪風が会いたがるかは分からなかった。
雪風はもううさぎではない。うさぎとして接していた相手に今の雪風が会いたがるかどうか、どういう反応をするか、そういったことが何一つ読めなかったからだ。
雪風が会いたがらなければ、どの日程も雪風は難しいから一人で行くと連絡しなければならない。
二人の時の雪風は半分うさぎのようにしているが、家を一歩出て一人になるとうさぎの片鱗すら見せない。徹底的に新しい南野雪風をしている。いや、本来の南野雪風と言った方が正しいのかもしれない。
本当はそちらの方が楽で、二人の時は変に気を遣っているのかもしれないが、どちらであっても雪風として接すれば問題ない。
雪風は十八年間の全て捨てた。捨て損ねたたった一つのもの以外の全てを。
雪風が無理をしないように、嫌なことを笑顔で受け入れてしまわないように、傍に居る者として確認は怠らない。
「みんなでわちゃわちゃするのも楽しそうだよね」
ぽつりと呟いた雪風の真意は掴めなかった。
「今すぐじゃなくていいし忘れてもいいからな」
そう告げて秋刀魚を摘まむ。口に放り込むと秋の味覚らしくいい香りが鼻を刺激した。
やっぱり秋は秋刀魚が美味い。
「お前、うさぎを拾わなくていいからな」
気を遣って半分うさぎでいる必要はないと、うさぎを捨て切りたいならばそれでもいいと、そういうつもりで言った言葉だったが、それを聞いた雪風は持っていた箸と茶碗を置いて勢いよく立ち上がった。
その顔が少し歪んでいるように見えた。
「俺のこといらなくなったのっ……!?」
「そんなこと言ってねぇだろ。座れ」
「だって」
「無理すんなって言ってんの」
会いたくなければ会わなくてもいい。
うさぎをもうしたくないならしなくてもいい。
いい加減自由に生きていいんだ。
半分うさぎでいることが負担ならやめてもいい。
「ひーたんのうさぎは俺だけ。そうでしょ?」
「そうだな」
雪風の問いに即答する。
うさぎは雪風だけ。
他の誰もうさぎにはならない。他の誰かをうさぎと呼ぶこともない。
『俺のうさぎ』は雪風ただ一人だ。
「……みんなで、仲良くわちゃわちゃしたい……」
「そうか」
「同窓会とか、そんなの無縁だと思ってたけど、四人でならやりたい……」
「わかった」
「ひーたん」
「俺は、お前が無理なく過ごせるならそれでいい。うさぎでもうさぎじゃなくても。『雪風』をちゃんと生きてるならいいんだ」
そこまで言って、やっと雪風は椅子に座った。
言いたいことが伝わったらしい。
夕食と風呂を終えてソファーで寛いでいる雪風の隣に座ると、雪風が肩に頭を乗せて来た。甘えているのだと分かり頭を撫でてやると笑って喜んだ。
その様子を見てやっぱり耳がない方が好きだなと改めて実感する。頭を撫でやすいし、撫でて雪風が喜ぶならばそれはいいことだ。
頭を撫でていると雪風が動いた。膝の上に乗られて身体が向かい合わせになる。
最近よくする体勢で、雪風は今はこの体勢がお気に入りらしい。少し前までは足の間に入るのがお気に入りだったようだが最近はよく向かい合う。
「日程、俺もどこでもいいよ」
「分かった。言っとく」
「ほんとはちょっと楽しみ」
「そうか、よかったな」
「ひーたん、すき」
「はいはい」
雪風が楽しそうに言うから少し安心した。
二人の用は十中八苦結婚の報告ではないだろうが、そうでなくても会って話すことは特別だ。しばらく会えていない友人たちの近況報告を聞いて、こちらも近況報告をする。
同棲しているのかと聞かれたら同居だと答えるが、ベッドが一つしかないことを考えると同棲なのかもしれない。
まあいい。どうせ雪風は同棲だと答えるだろう。それをいつも通り同居だと訂正して、昔を懐かしむような会にすればいい。
『お前のうさぎが』と言われたら、笑って『俺のうさぎが』と言うだろうけれど。
みんなで仲良くわちゃわちゃ、楽しみだな、雪風。
*----------*----------*----------*----------*----------*
よるこさんのお宅の「うさぎコンビ」から。
一年ぶりなので、まずくまを読むところから。くまを読んでうさぎを読んで、自分が書いた過去作を読んで、よるこちゃんのTwitterも探しました。
過去にあった同窓会の話の少し前くらいに思ってくれればOKです。
お題は「仲良くわちゃわちゃ」だったので、普通に同窓会を書けばよかったと後から気付きましたね。
一年ぶりに書いたので、ちゃんとうさぎコンビになってるか不安だなぁ……
毎年参考文献を読み直すから、来年のために今から参考文献をしっかりストックしておきたいですね。
よるこちゃん、大変なご時世だけど、今年もお誕生日おめでとう!
今年は遅くなってごめんね。無理しすぎないようにしてね。
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