「それで、どうしたの」
前髪を掻き上げながらペットボトルの水を飲む男を、ぼんやりと眺める。
男はある程度飲むと、そのペットボトルをこちらへ差し出した。
とりあえずは受け取ったものの、まだ飲もうという気にはなれない。喉はこの上なく乾いている。だが、問題は深刻だ。
男が帰宅すると同時に抱き着いた。思うところがあったからだが、その理由を寝る前に話すと焦らしたのは俺だ。
就寝前の睦言か、と言われたが、それは否定も言い訳もしない。
ただ、いつものように、精々三回程度だと思っていた。まさか今日に限って五回もするとは思わなかったのだ。
毎日してるのに何故だ、と不満を零してみれば、返ってきたのは、急に抱き着いてくるなんてかわいいことするから、なんていうなんとも言えない答えだった。
帰宅早々俺から抱き着くというのは、よくあることではない。大抵は寝室のベッドの上にいて、男の帰宅をベッドの上で出迎えるのが常だ。その俺が急に抱き着いて見せれば、理由を聞かれるだろうということは分かっていた。
とはいえ、身体が思ったように動かないし、言葉を発するのも億劫だ。
ただ、それも俺だけで、目の前の男はいけしゃあしゃあとしているどころか、出すものを出してすっきりという感じだ。そりゃそうだろう、五回も出せば。
全くもって理不尽である。
やっと身体を起こし、先程受け取ったペットボトルの水を流し込む。冷た過ぎずぬるすぎず、とてもよい喉越しだ。
いい具合に喉が潤ったところでようやく、今日のことを話す気になった。
普段、日中でも寝室にいることが多いが、トイレに行こうと寝室を出たときだった。何気なくふとリビングの窓の外を見ると、明るい光が入り込んで来ているのに気付く。その明るい光を目にした瞬間、一気に思考は昔へと巻き戻った。
高校のとき、そう、忘れもしないあの日の帰り道、二人で一緒に見たあの夕焼け。とても綺麗な茜色で、辺り一面の街並みが茜色に染まっていた。
あの茜色に染まった日、この男の欲望に塗れた願いを聞き入れた。
懐かしい、あの頃。
そんな日を思い出していたら、急に愛しい男に会いたくなって、あと数時間で帰って来るはずの男を待てなくて、帰って来た途端に、抱き着いた。
思い出しながら思ったんだ、俺ってやっぱり。
「お前のこと、ほんとに好きだなって思ったんだ」
一通りの話をして、一区切りとなったところで顔を上げて男を見ると、男はベッドの側で口を開けて間抜けな顔をして突っ立っていた。
なんだ、その顔。
「ほんとに?」
信じられないというような顔をして、男が問う。
何を今更、そんなことに驚いているのか。もう何年もこんな生活をしていて、この状況で、この関係で。
「俺を、誰の目にも触れさせたくないから、閉じ込めたいって言ったの、お前だろ」
あの日、あの茜色に染まった日、俺に馴れ馴れしく触れてきた同級生に嫉妬の炎を燃やし、嫉妬に狂った男が言った言葉。あの日の願いを俺は聞き入れた。だからこそ。
「だから、お前の部屋でお前の帰りを待ってる」
ただ、ひたすら、お前の帰りを待ってる。
この部屋から出ることは簡単だ。ただ、鍵を開けて出ればいい。表面上はその通りだ。だが、無断で出た途端に警報が鳴るように設定されていることも知っている。知らないことになっているから一度も口にしたことはない。自分が寝ている隣で、実家の者との電話の中にそんな話を混ぜ込むのが悪い。男の兄弟に知れたら詰めが甘いと笑われるだろう。男の実家はそんなこともあっさりとやってのけてしまう恐ろしい家だ。そもそも、俺がこの部屋であっただけで、あの実家には俺と同じ状態の人がいそうでならない。あの広い屋敷の中に隠し部屋があっても驚かないし、その中に本当に人が隠されていても、驚くことは出来ないのだ。
この部屋にしても、警報が鳴れば、男はどこにいてもすぐさま飛んでくるに違いない。そして、哀しそうに笑うのだろう。
「嫉妬してるお前もかわいいけど、俺の身が持たなくなるから、このままでいい」
嫉妬に狂っている男は、子供っぽくて、わがままで、それでいて、俺以外を視界に入れようとしない。それこそ、手錠と鎖を持ち出されたことだってある。ベッドに繋がれて、日がな一日、男の愛を受け入れる。もう入らないと告げても、もう許してと嘆いても、決して許してはくれない。
俺の眼に自分以外を入れたくなくて、自分以外の眼に俺が入るのも許せなくて。
それを味わうために偽りの間男を仕立て上げるようなことを思い立ったこともあったが、実際にそんなことになれば、地獄を見るのことは火を見るよりも明らかだ。
日々、愛されているのだと自覚する。
ここまで来ると、毎日のように身体の奥深くに放たれる愛を受け入れながら、一生を終えるのも悪くはない。
男は勢いよくベッドへと入り、俺へと覆い被さってきた。男の昂ったものが俺の身体に当たる。元気が良すぎて笑ってしまうところだ。
「もっかいしよ」
「ばか」
毎日のようにやってて、今日はもう五回もして、これ以上さらになんて馬鹿だ。俺の中はもういっぱいで、これ以上入らない。
そんなことは御構い無しに男の手は俺の身体を撫でてゆく。
肌に触れた指輪の冷たさに、自分の身体の火照りを感じた。
to be continued?
前髪を掻き上げながらペットボトルの水を飲む男を、ぼんやりと眺める。
男はある程度飲むと、そのペットボトルをこちらへ差し出した。
とりあえずは受け取ったものの、まだ飲もうという気にはなれない。喉はこの上なく乾いている。だが、問題は深刻だ。
男が帰宅すると同時に抱き着いた。思うところがあったからだが、その理由を寝る前に話すと焦らしたのは俺だ。
就寝前の睦言か、と言われたが、それは否定も言い訳もしない。
ただ、いつものように、精々三回程度だと思っていた。まさか今日に限って五回もするとは思わなかったのだ。
毎日してるのに何故だ、と不満を零してみれば、返ってきたのは、急に抱き着いてくるなんてかわいいことするから、なんていうなんとも言えない答えだった。
帰宅早々俺から抱き着くというのは、よくあることではない。大抵は寝室のベッドの上にいて、男の帰宅をベッドの上で出迎えるのが常だ。その俺が急に抱き着いて見せれば、理由を聞かれるだろうということは分かっていた。
とはいえ、身体が思ったように動かないし、言葉を発するのも億劫だ。
ただ、それも俺だけで、目の前の男はいけしゃあしゃあとしているどころか、出すものを出してすっきりという感じだ。そりゃそうだろう、五回も出せば。
全くもって理不尽である。
やっと身体を起こし、先程受け取ったペットボトルの水を流し込む。冷た過ぎずぬるすぎず、とてもよい喉越しだ。
いい具合に喉が潤ったところでようやく、今日のことを話す気になった。
普段、日中でも寝室にいることが多いが、トイレに行こうと寝室を出たときだった。何気なくふとリビングの窓の外を見ると、明るい光が入り込んで来ているのに気付く。その明るい光を目にした瞬間、一気に思考は昔へと巻き戻った。
高校のとき、そう、忘れもしないあの日の帰り道、二人で一緒に見たあの夕焼け。とても綺麗な茜色で、辺り一面の街並みが茜色に染まっていた。
あの茜色に染まった日、この男の欲望に塗れた願いを聞き入れた。
懐かしい、あの頃。
そんな日を思い出していたら、急に愛しい男に会いたくなって、あと数時間で帰って来るはずの男を待てなくて、帰って来た途端に、抱き着いた。
思い出しながら思ったんだ、俺ってやっぱり。
「お前のこと、ほんとに好きだなって思ったんだ」
一通りの話をして、一区切りとなったところで顔を上げて男を見ると、男はベッドの側で口を開けて間抜けな顔をして突っ立っていた。
なんだ、その顔。
「ほんとに?」
信じられないというような顔をして、男が問う。
何を今更、そんなことに驚いているのか。もう何年もこんな生活をしていて、この状況で、この関係で。
「俺を、誰の目にも触れさせたくないから、閉じ込めたいって言ったの、お前だろ」
あの日、あの茜色に染まった日、俺に馴れ馴れしく触れてきた同級生に嫉妬の炎を燃やし、嫉妬に狂った男が言った言葉。あの日の願いを俺は聞き入れた。だからこそ。
「だから、お前の部屋でお前の帰りを待ってる」
ただ、ひたすら、お前の帰りを待ってる。
この部屋から出ることは簡単だ。ただ、鍵を開けて出ればいい。表面上はその通りだ。だが、無断で出た途端に警報が鳴るように設定されていることも知っている。知らないことになっているから一度も口にしたことはない。自分が寝ている隣で、実家の者との電話の中にそんな話を混ぜ込むのが悪い。男の兄弟に知れたら詰めが甘いと笑われるだろう。男の実家はそんなこともあっさりとやってのけてしまう恐ろしい家だ。そもそも、俺がこの部屋であっただけで、あの実家には俺と同じ状態の人がいそうでならない。あの広い屋敷の中に隠し部屋があっても驚かないし、その中に本当に人が隠されていても、驚くことは出来ないのだ。
この部屋にしても、警報が鳴れば、男はどこにいてもすぐさま飛んでくるに違いない。そして、哀しそうに笑うのだろう。
「嫉妬してるお前もかわいいけど、俺の身が持たなくなるから、このままでいい」
嫉妬に狂っている男は、子供っぽくて、わがままで、それでいて、俺以外を視界に入れようとしない。それこそ、手錠と鎖を持ち出されたことだってある。ベッドに繋がれて、日がな一日、男の愛を受け入れる。もう入らないと告げても、もう許してと嘆いても、決して許してはくれない。
俺の眼に自分以外を入れたくなくて、自分以外の眼に俺が入るのも許せなくて。
それを味わうために偽りの間男を仕立て上げるようなことを思い立ったこともあったが、実際にそんなことになれば、地獄を見るのことは火を見るよりも明らかだ。
日々、愛されているのだと自覚する。
ここまで来ると、毎日のように身体の奥深くに放たれる愛を受け入れながら、一生を終えるのも悪くはない。
男は勢いよくベッドへと入り、俺へと覆い被さってきた。男の昂ったものが俺の身体に当たる。元気が良すぎて笑ってしまうところだ。
「もっかいしよ」
「ばか」
毎日のようにやってて、今日はもう五回もして、これ以上さらになんて馬鹿だ。俺の中はもういっぱいで、これ以上入らない。
そんなことは御構い無しに男の手は俺の身体を撫でてゆく。
肌に触れた指輪の冷たさに、自分の身体の火照りを感じた。
to be continued?
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