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2026/04/04 23:03 |
夏の星と逢瀬を
「あつい…!」

夏ど真ん中の昼間は御天道様がかんかん照りで、蒸し暑いことこの上ない。
ただ暑いだけならばまだしも、湿気まであると余計暑苦しくて仕方がない。

「夏だからな」

そんな分かりきったことを言うこいつは全然暑そうではなく、寧ろ涼しげだ。昔からそういうやつで、暑い暑いと騒いでいるのはいつも自分ひとりだけだ。

「クーラー…」

夏休みなのは学生だけで、親は仕事の日々。日中に家にいるのは息子ひとりとあれば、クーラーの使用許可など出るわけもない。扇風機を独り占めすれば充分だろうと言われている。親はこいつがいることを知らないのだからそれも仕方がないと言えばその通りだ。

「扇風機で我慢しろ」

そして、それを知っているこいつは容赦がない。うちの方針は昔から変わらないからだ。
扇風機では限界があることを知らないのか。扇風機の前で声を出すのを楽しむほど、子供ではない。

「夜になったらいくらか涼しくなる」

それはそうだろう。そんなことは百も承知だが、今この瞬間の暑さから逃げる方法ばかり考えている。
冷凍庫の扉を開けて、中に入っていたアイスを取り出して頬張る。
今の暑さを取り急ぎなんとかするにはこれが一番効果的だ。

「なぁ、星見に行かね?」

天の川とはいかなくても、この時期の星空は綺麗だ。本当は冬の方が空気が澄んでいて綺麗だというが、冬に星を見ようとは思わないところを考えると、夏の星空が好きなんだろう。

「今日は綺麗に見れるってさ」

そんなことを、朝のニュースでニュースキャスターが言っていた。
アイスを齧りながら視線を向ける。
なんて、言うだろうか。
いや、考えるだけ無駄だ。
こいつは、必ずこう言う。

「行こっか」

いつもと同じ顔で笑いながら言った。




「…涼しい」
「川の近くだしな。川のせせらぎもいい感じだ」

星見をするならばここが一番、という取って置きの場所は昔から変わらない。視界が開けていて、高い建物がなく、寝転びながら星空を一望できるのはこの辺りではここだけだ。林というのか、森というのか、ここは緑に囲まれていて、とても居心地がいい。幼少期に遊び回っていた頃から何も変わらない、それがとても気に入っている。
川のせせらぎに、虫の声、花が揺れる音。
喧騒のない静かな空間。

「………いつまで、いれんの…」

自分で思ったより、小さい声になってしまった。本当に呟くように、小さな声だった。それでも、こいつには多分聞こえてた。

「お前が望むまでずっと」

静かにそう呟く。
本当に、本当に望むまでずっと一緒にいれたら、どれだけいいだろう。
どれだけ、それを望んだだろう。
でも、現実は甘くないことを知ってしまっている。知らない子供のままでいたかった。

「ほんとに?」

縋るように声を出す。
こいつの眼を見ていたい。
こいつの顔を眼に焼き付けたい。
こいつの全てを、刻み付けたい。

「…ごめんな」

眉を下げ、困ったような顔をして、謝られた。
謝ってほしいわけじゃない。
そんなこと、望んでないんだ。
謝られたら、そんなことを言われたら、一気に涙が溢れそうになってしまう。
たった一言、その一言でこんなにも心動かされる。



「ずっと、見てるよ。お星様になって」

それは、小学三年生のとき、こいつの母親がこいつに最後に言った言葉だ。
わかっている。
いつまでも続かないこと。
どうしようもないこと。
もう、二度と逢えないこと。

「…おいてくなよ…」

そう告げた瞬間、流れ星が通ったことを知る術はなかった。



*----------*----------*----------*----------*----------*

こちらもお世話になっている、ヤヒコさんへ捧げました。
お題は「星、扇風機、せせらぎ」でした。
ヤヒコさんが思った以上に気に入ってくださって、漫画にもなっています。
タイトルはヤヒコさんが漫画にしてくださったときのタイトルをそのまま拝借。

ヤヒコさんの素敵漫画はこちら↓
夏の星と逢瀬を
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2016/12/24 20:00 | 単発
ふわふわ、ガーベラ、森
ふわふわ、揺れる。
ふわふわ、ふわふわ、揺れる。
白い綿毛。蒲公英の綿毛。


寒冬の冷たさを乗り越え、迎える暖春の風はとても心地よく、蒲公英の綿毛が揺れているのを眺めながら、もう春なのだと心が感じていた。
屋敷の部屋からは決して見ることは出来ないが、春の暖かさに誘われて、散歩をしようと庭に出たのは間違いではなかった。
蒲公英の群れは揃って白い綿毛を纏っている。
春というのは、様々な植物が姿を見せるとてもよい季節だ。その時季にしか出会えぬ花や草木は心を和ませ、穏やかにしてくれる。
少し強めの風が吹くと、蒲公英の綿毛が飛び出した。風に乗り、ふわふわと。
目の前を飛び去った綿毛は森の方へと進んでいた。
ふと、思い出す。
昔は、まだ幼い頃は、森はとてもよい遊び場だった。自然に触れ、降り注ぐ太陽の光のもと、時間の許す限り戯れたものだ。
久方振りに、あの森に入ってみよう。森の木々と、戯れたい。
そうと決まれば森に入るのが楽しくなる。綿毛を追い掛け、森の中へと足を進める。



「お客さんなんて、珍しいね。」

森の中へと足を進めると、なんとも不思議なところへ出た。昔はこんなところ、あっただろうか、と考える。何度も訪れたはずの森が、懐かしくもあり、初めて訪れた場所のような感覚すらする。
一目見ただけで、性別はわからなかった。顔も声も中性的で、身なりも、全体的に見て格式高いものではない。寧ろ、布一枚を羽織ったような簡素なものだ。年は同じくらいかもしれない。腕の中に持たれた溢れるほどの鮮やかな花がガーベラの花であることだけ辛うじて理解出来た。
何故この森の中に、いるのかすら分からない。
ただ、目が離せなかった。
目を、逸らすことが出来なかった。
雷が落ちたように、という表現を、以前本で読んだことがある。それを初めて実感した。そんなこと本当にあるわけがないと思っていた自分が間抜けに思えるほど、その表現は今の自分に最も適していると思った。

「そういえば、魔女がなにか言っていたような。」

とても優しい顔で、とても柔らかい声で、こちらを見る。
この暖かい春の日差しの中、氷漬けになったかのように動けない。動く気すら失せてしまう。ずっと、このままで、ずっとこのまま、永遠に見ていたいと思ってしまう。
魔女とはなんのことなのだろう。いや、そんなこと、どうだっていい。
腕の中に収まっているガーベラの花が揺れる。色鮮やかに。ひらひらと。
ガーベラの花言葉はなんだったっけ…。
最近読んだ本に載っていた気がする。確か色別の花言葉があって、色別ではなく、ガーベラとしての花言葉もあったのだ。なんだったのか、思い出せない。脳が思考を停止せてしまっている。

「あぁ…『運命が歩いてくるよ』だった。」

ふわり、と笑った。
その瞬間、雷どころの騒ぎではなくなった。天変地異だ。己の中の何かが変わってゆく。
あぁ、これは、一言で表すならばーーー。

「ということは、君が『運命』なのかな?」

ーーーーーーあぁ、思い出した。
ガーベラの花言葉は「希望」だ。
ということは、この子が、『運命』であるのと同時に『希望』なのだ。
そう、直感的に理解した。



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お世話になっている創作畑のヤヒコさんへ、捧げました。
お題は「ふわふわ、ガーベラ、森」でしたが、ガーベラがお題にあるのに、蒲公英を出したのは失敗したな、と思いました。
これはもうちょっとどうにか出来ただろうに…いつか大幅に加筆修正をしたいです。

2016/12/24 19:52 | 単発

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