「うさぎ」
隣でぽつりと呟かれたその声を聞いて、ふと辺りに視線を向けた。
そこで視界に入ったのは、どこかの誰かが配っている風船だ。その風船の絵柄にうさぎがあった。
他にも猫や犬などいくつかの動物がふよふよと空を泳いでいる。その風船はその場にいる子供たちへ配られているようだった。
すぐにどういう主旨のものか確認すると、近くにあるショッピングモールがリニューアルオープンすることにより、近くのこの公園で風船配りの催しをしているらしい。
この場所は親子連れが集まる公園であり、土日となればそれなりに賑やかだ。大人二人でこの公園を歩いていると目立つとまでは言わないが、あまり何人もいるような感じではなさそうだ。
雪風は子供たちに与えられている風船の中のうさぎを見て、ぽろっと零しただけだろう。意味もなく、何となく目に入っただけかもしれない。
「いるか?」
試しにそう訊ねてみると、雪風は顔色を変えることなく風船から視線を外した。
「いるように見える?」
風船を貰える対象は子供であり、大人が欲しいと言ったところで貰えるわけもない。
だがそれは言ってみないと分からない。どうせ断られるだろうと分かっていても。
雪風が本当に欲しいと思っていないことも分かっていたが、なんとなく口から言葉が出ていた。
「貰って来てやるよ」
そう言って一歩踏み出すと、その行動に驚いたのか雪風が服を掴んで来た。それに制止されて足が止まる。
「いいって。欲しくない」
そうだろうと思っていたため驚きはしない。雪風も本当に貰いに行くとは思っていなかったはずだ。
それでも物理的にしっかりと止めた。そのまま風船から遠ざかるように歩き出す。
「ちょっと目に入っただけだし。それにひーたんだって欲しいわけじゃないでしょ」
欲しいわけではないだろうと言われるとその通りだ。雪風が呟くまで風船を配っているものにすら興味がなかった。
眼に入っていても見ていないも同然で、認識したのは雪風の声が耳に入ったからにすぎない。
「お前が欲しいのかと思って」
そんなわけがないと思いつつ告げると、雪風は呆れたように視線を逸らした。その反応はそんなわけがないと言いたげなものだった。
「俺が欲しいって言うわけない」
まあそれもそうか、と思いながら、二人で空いていた近くのベンチに腰掛けた。
公園を散歩しようと言い出したのは雪風の方だった。
日々多忙を極める雪風は、会社までの道のりも送迎がついているため、歩く機会が少ない。
それでも多忙にしている分、身体は疲れているらしく、自分から動こうと思わない限り運動をすることもない。
秋の気配が近付き、少し気候が心地良くなったところで、近くの公園まで散歩する程度ならばいい運動になると考えたのだろう。
二人で散歩する機会はあまり多くなかったため新鮮な感じがする。
ベンチに腰掛けてからも視界には風船があるため、必然的に眼に入って来た。
二人で子供たちに配られていく風船を眺めながら秋風に当たる。
何を話すでもなく、ただ静かに公園で遊ぶ子供たちの喧騒を聞いた。
「……別に、いつもうさぎを気にしてるわけじゃないから」
雪風は消え入りそうなほど小さな声で呟いた。
風に乗って消えてしまいそうなその声を、耳がしっかりと捉えたのは偶然ではない。
雪風の声を聞き漏らさないように、本当に小さい声さえ聞き逃さないように。それが日々の当たり前になっている。
「分かってる」
雪風はもううさぎではない。
むしろもううさぎだった頃よりも、そうでなくなった期間の方が長い。
それでも動物ものの何かを選ぶ際に、どうしてもうさぎを手に取ってしまう。
無意識にそうしてしまうのは雪風だけではないのだ。
ふと見かけたものを手に取って買ってしまう。それはどういうわけかうさぎばかりだ。
どこかでうさぎだった雪風を恋しいと思ってしまっているのか。
うさぎに囚われているのは雪風ではないのかもしれない。
そう考えながら自分の心中すら複雑でよく分からなかった。
「やっぱ貰って来るか」
呆然と風船を眺めながらそう呟くと、雪風が驚いたように顔を向けた。
そんな雪風と見つめ合うように顔を向けると、雪風が頬をこれでもかと膨らませる。
だが拗ねているようには見えなかった。ただ無表情で頬を膨らませてこちらを見ている。
何故か誘われたように親指と人差し指で引き寄せられ、そのまま膨れ切った雪風の頬を左右から押し込む。
ぷっと膨らんでいた頬が息を吐き潰れた。
「はい、うさぎの風船ね。これでもういいでしょ」
雪風はそう言ってベンチから腰を上げた。そして振り返る。
「帰ろ。ひーたん」
どうやらうさぎの風船の代わりをしたのだから、あの風船はいらないだろうということらしい。
それを聞いて少し可笑しくなりながらも、雪風につられる形でベンチから立ち上がった。
並んで歩きながら、雪風の頭の上に手を乗せる。
「お前、もううさぎじゃないんだろ」
分かり切ったことを訊ねてみたが、雪風の反応はあっさりとしていた。
「そうだけど、ひーたんのうさぎは俺だから」
いつかも聞いたような聞いていないような、そんなことを言いながら雪風は歩いている。
風船のように丸い頭を撫でながら、二人で家までの道を歩いた。
*----------*----------*----------*----------*----------*
よるこさんのお宅の「うさぎコンビ」から。
「結局うさぎやんけ!」ということで、そろそろ私が書くうさぎコンビにも飽きてきた頃合いかと思うんですが今年もうさぎです。申し訳なし。
今年は忙しくてなかなかTwitterにいなかったので、よるこちゃんとも全然絡めず……3月に大人ひーたんを描いてくれていたのに今気付きました。まじで今。
今年もギリギリの進捗で毎年「来年こそは~」みたいなことを言ってるんですが、実は9/18っていくつかイベントが重なっていて、その準備で謎に忙しいんですよね。本当に来年こそ余裕を持ちたいな。
よるこちゃん、相変わらず大変なご時世だけど、今年もお誕生日おめでとう!
無理しすぎないようにしてね。
隣でぽつりと呟かれたその声を聞いて、ふと辺りに視線を向けた。
そこで視界に入ったのは、どこかの誰かが配っている風船だ。その風船の絵柄にうさぎがあった。
他にも猫や犬などいくつかの動物がふよふよと空を泳いでいる。その風船はその場にいる子供たちへ配られているようだった。
すぐにどういう主旨のものか確認すると、近くにあるショッピングモールがリニューアルオープンすることにより、近くのこの公園で風船配りの催しをしているらしい。
この場所は親子連れが集まる公園であり、土日となればそれなりに賑やかだ。大人二人でこの公園を歩いていると目立つとまでは言わないが、あまり何人もいるような感じではなさそうだ。
雪風は子供たちに与えられている風船の中のうさぎを見て、ぽろっと零しただけだろう。意味もなく、何となく目に入っただけかもしれない。
「いるか?」
試しにそう訊ねてみると、雪風は顔色を変えることなく風船から視線を外した。
「いるように見える?」
風船を貰える対象は子供であり、大人が欲しいと言ったところで貰えるわけもない。
だがそれは言ってみないと分からない。どうせ断られるだろうと分かっていても。
雪風が本当に欲しいと思っていないことも分かっていたが、なんとなく口から言葉が出ていた。
「貰って来てやるよ」
そう言って一歩踏み出すと、その行動に驚いたのか雪風が服を掴んで来た。それに制止されて足が止まる。
「いいって。欲しくない」
そうだろうと思っていたため驚きはしない。雪風も本当に貰いに行くとは思っていなかったはずだ。
それでも物理的にしっかりと止めた。そのまま風船から遠ざかるように歩き出す。
「ちょっと目に入っただけだし。それにひーたんだって欲しいわけじゃないでしょ」
欲しいわけではないだろうと言われるとその通りだ。雪風が呟くまで風船を配っているものにすら興味がなかった。
眼に入っていても見ていないも同然で、認識したのは雪風の声が耳に入ったからにすぎない。
「お前が欲しいのかと思って」
そんなわけがないと思いつつ告げると、雪風は呆れたように視線を逸らした。その反応はそんなわけがないと言いたげなものだった。
「俺が欲しいって言うわけない」
まあそれもそうか、と思いながら、二人で空いていた近くのベンチに腰掛けた。
公園を散歩しようと言い出したのは雪風の方だった。
日々多忙を極める雪風は、会社までの道のりも送迎がついているため、歩く機会が少ない。
それでも多忙にしている分、身体は疲れているらしく、自分から動こうと思わない限り運動をすることもない。
秋の気配が近付き、少し気候が心地良くなったところで、近くの公園まで散歩する程度ならばいい運動になると考えたのだろう。
二人で散歩する機会はあまり多くなかったため新鮮な感じがする。
ベンチに腰掛けてからも視界には風船があるため、必然的に眼に入って来た。
二人で子供たちに配られていく風船を眺めながら秋風に当たる。
何を話すでもなく、ただ静かに公園で遊ぶ子供たちの喧騒を聞いた。
「……別に、いつもうさぎを気にしてるわけじゃないから」
雪風は消え入りそうなほど小さな声で呟いた。
風に乗って消えてしまいそうなその声を、耳がしっかりと捉えたのは偶然ではない。
雪風の声を聞き漏らさないように、本当に小さい声さえ聞き逃さないように。それが日々の当たり前になっている。
「分かってる」
雪風はもううさぎではない。
むしろもううさぎだった頃よりも、そうでなくなった期間の方が長い。
それでも動物ものの何かを選ぶ際に、どうしてもうさぎを手に取ってしまう。
無意識にそうしてしまうのは雪風だけではないのだ。
ふと見かけたものを手に取って買ってしまう。それはどういうわけかうさぎばかりだ。
どこかでうさぎだった雪風を恋しいと思ってしまっているのか。
うさぎに囚われているのは雪風ではないのかもしれない。
そう考えながら自分の心中すら複雑でよく分からなかった。
「やっぱ貰って来るか」
呆然と風船を眺めながらそう呟くと、雪風が驚いたように顔を向けた。
そんな雪風と見つめ合うように顔を向けると、雪風が頬をこれでもかと膨らませる。
だが拗ねているようには見えなかった。ただ無表情で頬を膨らませてこちらを見ている。
何故か誘われたように親指と人差し指で引き寄せられ、そのまま膨れ切った雪風の頬を左右から押し込む。
ぷっと膨らんでいた頬が息を吐き潰れた。
「はい、うさぎの風船ね。これでもういいでしょ」
雪風はそう言ってベンチから腰を上げた。そして振り返る。
「帰ろ。ひーたん」
どうやらうさぎの風船の代わりをしたのだから、あの風船はいらないだろうということらしい。
それを聞いて少し可笑しくなりながらも、雪風につられる形でベンチから立ち上がった。
並んで歩きながら、雪風の頭の上に手を乗せる。
「お前、もううさぎじゃないんだろ」
分かり切ったことを訊ねてみたが、雪風の反応はあっさりとしていた。
「そうだけど、ひーたんのうさぎは俺だから」
いつかも聞いたような聞いていないような、そんなことを言いながら雪風は歩いている。
風船のように丸い頭を撫でながら、二人で家までの道を歩いた。
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よるこさんのお宅の「うさぎコンビ」から。
「結局うさぎやんけ!」ということで、そろそろ私が書くうさぎコンビにも飽きてきた頃合いかと思うんですが今年もうさぎです。申し訳なし。
今年は忙しくてなかなかTwitterにいなかったので、よるこちゃんとも全然絡めず……3月に大人ひーたんを描いてくれていたのに今気付きました。まじで今。
今年もギリギリの進捗で毎年「来年こそは~」みたいなことを言ってるんですが、実は9/18っていくつかイベントが重なっていて、その準備で謎に忙しいんですよね。本当に来年こそ余裕を持ちたいな。
よるこちゃん、相変わらず大変なご時世だけど、今年もお誕生日おめでとう!
無理しすぎないようにしてね。
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