「もう一度、言って」
車が走り出してから、雪風はそっと呟いた。
何を、ととぼけることも出来たが、それよりも、と考え至ったことを口にした。
「10年後にまた言ってやるよ」
未来のことを告げるこの言葉は雪風にどう聞こえるのだろう。
車を走らせながら、紅葉が遠くなってゆく。
次に紅葉を見ることになるのはいつだろう。
どれくらい先のことか、今は見当もつかないけど、毎年じゃなくていい。
またいつか一緒に見れたら、それでいい。
「俺、南ちゃんじゃないよ」
意外だ。気付いたのか。
正直な話、雪風は気付かない、というか知らないと思っていた。
でもよくよく考えてみると、雪風が言った言葉は彼女が言った言葉と同じだったから、もしかしたら最初から知っていて、同じ言葉を言ったのかもしれない。
「でも『南野』だろ」
「ケチ」
「南ちゃんだ」
しばらく走り続けたら紅葉は見えなくなっていた。
いつの間にか雲行きが怪しくなってきている。雨が降るのかもしれない。遠くで雷の音が聞こえる気がする。
「雷だね」
雪風も気付いたようだ。これは足早に退散した方が賢明だ。
ただし、安全運転は忘れない。一人ならともかく、雪風を乗せたまま焦るのは良くない。何かあったら大変だだ。雪風は身分ある身なわけだし、会社のこととかいろいろと問題になるかもしれない。なんて、考えつつも、そんなことは大事じゃない。
俺が雪風を失うことの方が、よっぽど問題だ。
「ひーたん」
「んー?」
「余所見したら雷落とすよ、…だっちゃ」
「…だっちゃ」
余所見、とは、この場合は運転のことではない、はずだ。
ただ言われただけならばそう思っただろうが、だっちゃだ。
雪風に続いてだっちゃと言えば脳内にかわいい女の子が現れた。
角が生えていて、虎縞柄のビキニで、八重歯。
なるほど、雷を落とすか。
「なにお前、押しかけ女房する気なの」
「場合によってはそれも辞さないよ」
「あーまぁ、いつかは」
一緒に住むことも選択肢の一つだし。…なんて。
雪風は心配しているようだが、俺としては何を今更心配することがあるのか、という感じだ。
これまでずっと一緒にいて、一度だってそんなことがあっただろうか。
「余所見する暇なんかねーよ」
ただでさえ、ずっとお前を見てきたんだから。
それにしても。
「意外だな。漫画とか好きだったっけ」
今まで話題に出たことはないはずだ。思ったより年代が古いが、有名な作品なら一般教養程度で知っているのかもしれない。
俺もしっかりと読み込んだわけではないが、一般教養程度で知っている。
このくらいの漫画になると、読んだことが無くても知っている、になるのだから、名作と云うのは名に違わず名作なのだろう。
「俺がじゃないよ」
そう言った雪風は特に表情を変えたりはしなかった。
ただ一言、何でもない事かのように言った。
雪風が、じゃない。
なるほど、そういうことか。
その意味が分からないほど、馬鹿ではない。
「でも、紅天女がどっちになるかは知りたいかな」
「紅天女?」
「紫のバラの人とのことも気になるけどね」
「紫のバラ?」
今度はまったく分からなかった。
「紫のバラの人といい、ウィリアム大おじさまといい、あしながおじさんが都合よくいるところは現実味がないけど」
「なるほど、わからん」
「少年漫画より少女漫画だからね」
紅天女なんて漫画あったのか。紫のバラの人やウィリアム大おじさまなんていうのは知らないが、あしながおじさんは分かる。
少女漫画には詳しくない上に、この話の流れからすると古い作品だろう。知らなくても仕方ないか、と思い直した。
「陰で支えてくれる素性の分からない人より、ずっと傍にいて見守ってくれている人の方が、よっぽどいいと思うよ」
雪風の横顔を盗み見ると、何処か遠くを見ているようだった。
そろそろ本格的に雨が降りそうな感じがする。
なんとなく、こっちを向かせたくなった。
「雪風」
名前を呼んでみたが、雪風は顔をこっちに向けなかった。
呼ばれただけでは向かないか、と思いつつ返事もしないとは。
何事もないかのように、世間話であるかのように、さらっと言うのもありだろう。
「一緒に住むか」
遠くを見ていたはずの雪風が弾けるようにこっちを見る。
ついさっき、いつかなんて言ったのに、もうそのいつかが来たのか、なんて思っているのかもしれない。
雪風の眼が、顔が、驚きを隠せていない。
「………それって…」
そう言っている間に目的地に着いた。駐車場に車を停める。
俺を見る雪風の頭の上に左手を置き、ゆっくりと撫でてやる。
そのまま手を頬に滑らせると親指が雪風の口唇に触れた。
さらさらの髪に、すべすべの肌、柔らかい口唇、そして、俺を映す瞳。
「ずっと傍にいないとだろ」
あぁ、ちょうど、雨が降ってきた。
*----------*----------*----------*----------*----------*
これまた、よるこさんのお宅の「うさぎコンビ」から。
「大人うさぎコンビ」を今年の誕生日プレゼントで頂いてですね。
やばかったと思いません?これもうほぼ本編じゃんと言われて、本編OKですって言ったら本編になったんですよ?意味分からなくないですか?意味分からないですよね?私は今でも意味分からないです。神。
そんな紅葉のうさぎコンビの直後を、日頃の感謝と本編化の御礼を兼ねて。
タイトルは「かみなりなり、あめふりふり」です。語感を大切にしました。嘘です。なんとなくです。
書いてる最初から、だいぶとネタに走っていることは言ってあったので、よるこさんには(概ね)承諾を頂いているんですけど、肌に合わなかった方は本当にすみません。
全部私が好きな作品なんですよ。(でしょうね)
Twitterでだけ元ネタの作品に触れていたので、こちらにも追記します。
上から、タッチ(浅倉南)、うる星やつら(ラム)、ガラスの仮面(紫のバラの人)、キャンディ・キャンディ(ウィリアム大おじさま)です。
「漫画とか好きだったっけ」というひーたんの問いに「俺がじゃないよ」と答えた雪風ですが、この話で漫画が好きだったのは雪子です。
そして、雪子が女の子だったから、少女漫画ばかり読んでいた、その雪子と辻褄を合わせるために雪風もそれらの作品を一度以上は読んでいる、ということなのですが、雪子が漫画好きなのは公式設定にはありませんので、ご了承ください。
少し古い作品なのも年齢層を雪子に合わせて少し上を設定しているからです。
本当は雪子の年齢層からしても少し上だと思いますが、普及の名作はいつ読んでも名作ですからね。
機会があれば是非。
車が走り出してから、雪風はそっと呟いた。
何を、ととぼけることも出来たが、それよりも、と考え至ったことを口にした。
「10年後にまた言ってやるよ」
未来のことを告げるこの言葉は雪風にどう聞こえるのだろう。
車を走らせながら、紅葉が遠くなってゆく。
次に紅葉を見ることになるのはいつだろう。
どれくらい先のことか、今は見当もつかないけど、毎年じゃなくていい。
またいつか一緒に見れたら、それでいい。
「俺、南ちゃんじゃないよ」
意外だ。気付いたのか。
正直な話、雪風は気付かない、というか知らないと思っていた。
でもよくよく考えてみると、雪風が言った言葉は彼女が言った言葉と同じだったから、もしかしたら最初から知っていて、同じ言葉を言ったのかもしれない。
「でも『南野』だろ」
「ケチ」
「南ちゃんだ」
しばらく走り続けたら紅葉は見えなくなっていた。
いつの間にか雲行きが怪しくなってきている。雨が降るのかもしれない。遠くで雷の音が聞こえる気がする。
「雷だね」
雪風も気付いたようだ。これは足早に退散した方が賢明だ。
ただし、安全運転は忘れない。一人ならともかく、雪風を乗せたまま焦るのは良くない。何かあったら大変だだ。雪風は身分ある身なわけだし、会社のこととかいろいろと問題になるかもしれない。なんて、考えつつも、そんなことは大事じゃない。
俺が雪風を失うことの方が、よっぽど問題だ。
「ひーたん」
「んー?」
「余所見したら雷落とすよ、…だっちゃ」
「…だっちゃ」
余所見、とは、この場合は運転のことではない、はずだ。
ただ言われただけならばそう思っただろうが、だっちゃだ。
雪風に続いてだっちゃと言えば脳内にかわいい女の子が現れた。
角が生えていて、虎縞柄のビキニで、八重歯。
なるほど、雷を落とすか。
「なにお前、押しかけ女房する気なの」
「場合によってはそれも辞さないよ」
「あーまぁ、いつかは」
一緒に住むことも選択肢の一つだし。…なんて。
雪風は心配しているようだが、俺としては何を今更心配することがあるのか、という感じだ。
これまでずっと一緒にいて、一度だってそんなことがあっただろうか。
「余所見する暇なんかねーよ」
ただでさえ、ずっとお前を見てきたんだから。
それにしても。
「意外だな。漫画とか好きだったっけ」
今まで話題に出たことはないはずだ。思ったより年代が古いが、有名な作品なら一般教養程度で知っているのかもしれない。
俺もしっかりと読み込んだわけではないが、一般教養程度で知っている。
このくらいの漫画になると、読んだことが無くても知っている、になるのだから、名作と云うのは名に違わず名作なのだろう。
「俺がじゃないよ」
そう言った雪風は特に表情を変えたりはしなかった。
ただ一言、何でもない事かのように言った。
雪風が、じゃない。
なるほど、そういうことか。
その意味が分からないほど、馬鹿ではない。
「でも、紅天女がどっちになるかは知りたいかな」
「紅天女?」
「紫のバラの人とのことも気になるけどね」
「紫のバラ?」
今度はまったく分からなかった。
「紫のバラの人といい、ウィリアム大おじさまといい、あしながおじさんが都合よくいるところは現実味がないけど」
「なるほど、わからん」
「少年漫画より少女漫画だからね」
紅天女なんて漫画あったのか。紫のバラの人やウィリアム大おじさまなんていうのは知らないが、あしながおじさんは分かる。
少女漫画には詳しくない上に、この話の流れからすると古い作品だろう。知らなくても仕方ないか、と思い直した。
「陰で支えてくれる素性の分からない人より、ずっと傍にいて見守ってくれている人の方が、よっぽどいいと思うよ」
雪風の横顔を盗み見ると、何処か遠くを見ているようだった。
そろそろ本格的に雨が降りそうな感じがする。
なんとなく、こっちを向かせたくなった。
「雪風」
名前を呼んでみたが、雪風は顔をこっちに向けなかった。
呼ばれただけでは向かないか、と思いつつ返事もしないとは。
何事もないかのように、世間話であるかのように、さらっと言うのもありだろう。
「一緒に住むか」
遠くを見ていたはずの雪風が弾けるようにこっちを見る。
ついさっき、いつかなんて言ったのに、もうそのいつかが来たのか、なんて思っているのかもしれない。
雪風の眼が、顔が、驚きを隠せていない。
「………それって…」
そう言っている間に目的地に着いた。駐車場に車を停める。
俺を見る雪風の頭の上に左手を置き、ゆっくりと撫でてやる。
そのまま手を頬に滑らせると親指が雪風の口唇に触れた。
さらさらの髪に、すべすべの肌、柔らかい口唇、そして、俺を映す瞳。
「ずっと傍にいないとだろ」
あぁ、ちょうど、雨が降ってきた。
*----------*----------*----------*----------*----------*
これまた、よるこさんのお宅の「うさぎコンビ」から。
「大人うさぎコンビ」を今年の誕生日プレゼントで頂いてですね。
やばかったと思いません?これもうほぼ本編じゃんと言われて、本編OKですって言ったら本編になったんですよ?意味分からなくないですか?意味分からないですよね?私は今でも意味分からないです。神。
そんな紅葉のうさぎコンビの直後を、日頃の感謝と本編化の御礼を兼ねて。
タイトルは「かみなりなり、あめふりふり」です。語感を大切にしました。嘘です。なんとなくです。
書いてる最初から、だいぶとネタに走っていることは言ってあったので、よるこさんには(概ね)承諾を頂いているんですけど、肌に合わなかった方は本当にすみません。
全部私が好きな作品なんですよ。(でしょうね)
Twitterでだけ元ネタの作品に触れていたので、こちらにも追記します。
上から、タッチ(浅倉南)、うる星やつら(ラム)、ガラスの仮面(紫のバラの人)、キャンディ・キャンディ(ウィリアム大おじさま)です。
「漫画とか好きだったっけ」というひーたんの問いに「俺がじゃないよ」と答えた雪風ですが、この話で漫画が好きだったのは雪子です。
そして、雪子が女の子だったから、少女漫画ばかり読んでいた、その雪子と辻褄を合わせるために雪風もそれらの作品を一度以上は読んでいる、ということなのですが、雪子が漫画好きなのは公式設定にはありませんので、ご了承ください。
少し古い作品なのも年齢層を雪子に合わせて少し上を設定しているからです。
本当は雪子の年齢層からしても少し上だと思いますが、普及の名作はいつ読んでも名作ですからね。
機会があれば是非。
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