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2026/04/05 00:56 |
f02---立入禁止領域
「何で外で待ってんだよ。」

十分だけ待つと言われた電話を切ってから約五分。
それほど遠い場所でもないところへ行くのに十分も多すぎるとは思う。
それでも十分と言ったのは、多く見積もって、たった今から渋滞になっても間に合うだろう時間配分だからだろう。
十分だけ待つと言ったかねは、いると思ったコンビニに確かに居た。
だが、コンビニの中には入らず、外にいて、ごみ箱の付近に存在していた。
店内にいればそれなりに快適に過ごせたはずだ。
ありきたりな商品を見たり、雑誌を見たり、それなりに時間は潰せるはず。
それにも関わらず、店外にいたのはどういう理由だろうか。
迅矢がその姿を見つけ、いの一番に告げると口先を尖らせて小さく呟いた。

「…クラスの奴がいるから。」

同じクラスの奴がいるから、入れない。
そう理解してコンビニの中をそっと覗き込むと、確かに同じクラスの男子が数人集まっていた。

「そんな格好してるからだろ。」

そんな格好をしていなければ、普通の私服ならば、そのまま偶然だな、なんて言って少し話して、後腐れなくその場を後に出来たものを。
迅矢はそう思いそのまま言葉にする。
服装を引き合いに出すと、今度は服装を見て今更なことを言い出した。

「今日のスカート短すぎたかな…。」
「当たり前だ、ばか。女装なんてしなくていいっつってんのに。」
「…だって、人気アイドルの秋吉迅矢のオリキのトップが男だったら、いけないじゃん…。」

まただ。
また、かねは同じことを言う。
この言葉をその口から聞くのは何度目だろうか。
迅矢はよく飽きもせずにそればかり言えるものだ、と感心する。

「…帰るぞ。」

そう告げ、迅矢はかねの腕を引っ張った。
そのまま停めていたタクシーに乗り込もうと腕を引くと、かねは素直についてきた。

「…ほんとに、熱なかったんだよ…?」

最後に、縋るように迅矢に向けて言った。
迅矢だって分かってる、嘘なんて吐いてない。
それは充分分かっているんだ。

「準備してるときは、だろ。今はまた上がってきてる。」

そう言いながら、タクシーに乗せた。
迅矢はそのまま手を額に持っていき、熱を測る。
熱い。
やっぱり、熱が上がってきていると確信し、小さく舌打ちをした。
それからタクシーの運転手さんに出してくださいと告げる。

「…ん…、…え、ちょ、どこ行くの。」

行き先を告げなかった迅矢を見て、かねは不安そうな顔をした。
迅矢は不安そうな顔をしながらもしっかりと自分を見るかねのその顔が好きで。
もっともっと、見つめてほしいと思った。

「どこって、帰るんだろ。」
「どこに。」
「家に。」
「誰の。」
「俺の。」
「秋吉!」

途端、迅矢は名前を呼ばれた。
でもこれは、呼んでほしい呼び方ではない。
くん付けをされるような、作った呼び方ではなく素で呼んでいることが分かっている。
だからなのか嫌悪感はそんなにない。
苗字を呼ばれることが少ないわけではないからだ。
でも、それだとしても、嫌だ。
そんなことを思いながら迅矢がかねを見ると、少し怒ったような顔をしていた。

「分かってる?それを誰かに見られたらどうすんの。ここで降ろして。」
「そんな状態のお前だけ一人で下ろせって?嫌だね。」
「いやだ。」
「諦めろ、そんな状態のお前を素直に帰すつもりなんてない。」
「やだってば。」
「加弦、言うこと聞け。」

反論するかねを余所に、迅矢は両頬を掌で覆いしっかりと見つめた。
覆った頬が熱い。
熱のせいだと分かっていても、居た堪れなくなる。
眼と眼を合わせて、瞳の中の自分を見て。
しっかりと、確かに、確実に、括目させる。
これが一番いい。
こうすれば、七割方言う通りにする。
迅矢にはそういう確信があった。
すると、かねは見つめていた眼を迅矢から逸らし、小さく呟いた。

「………今日だけ、今日だけだからな…。」

その小さな呟きを聞いて、迅矢は少しだけ安心した。
これ以上熱が上がる前になんとかしたかった。

部屋の前でタクシーを降り、そのままかねを背負ってマンションの中へ入る。
背負ってみれば分かる。
やっぱり熱い。
タクシーを降りるとき、背負うことを告げると、歩けるからと抵抗した。
だが、次の瞬間、いい加減にしろと迅矢が放つと、案外素直に背負われた。
かねの心中を察するに、誰かに見られていたらどうしよう、という不安があったのだろう。
今のかねは女装をしているわけで、女性問題やスキャンダルになりかねない、と。
迅矢からすればそんなこと、今はどうでもいい些細なことだというのに。
迅矢に背負われてからは眼を瞑っており、心なしか呼吸も荒く感じる。
そのままエレベーターに乗り、部屋の鍵を開けて入り、やっと落ち着いた。
迅矢はかねを玄関にゆっくりと座らせ、今流行の最先端ブーツをゆっくりと脱がせてやる。
ゆっくりと、なんて少し語弊があるかもしれない。
少なからず心は急かされており、それが手の動きにも出たかもしれない。
ブーツを脱がし終えると、今度はかねを横抱きにして寝室へと向かった。
横抱き、俗にはお姫様だっこというのだろうが、そんなことを言ったら後でどんな言葉を返されるか分からない。
それは根底にかねが曲がりなりにも男であるという心理が働くのだろう。
以前迅矢がお姫様だっこをしてやろうかと言うとひどく返された。
寝室の扉を左足を上げて開け、中へと入る。
かねが見ていたら何を言われるか分かったもんじゃないが、迅矢の両手はかねを支えているわけだからその辺は勘弁してもらいたいところだ。
そのまま迅矢のベッドの上に降ろし、掛け布団を掛け、寝かせようとしたときだった。
かねがゆっくりと瞼を上げた。
先ほどより目が細く、虚ろになっている。

「薬出すから、飲んでもう寝ろ。」

薬と言っても、この薬でさえ、風邪を引き易い迅矢のためにかねが買って来てくれたものだ。
二度ほど飲んであるが、まだ充分に残っている。
それを飲めば少しは楽になるだろう。
迅矢は熱を出している人の看病なんて生まれてこの方したことなんてないけれど、以前かねがしてくれたようにすればいい、そう考えた。
熱を測って、温めて、お粥を作って、薬を飲ませて、ずっと傍に居てやること。
流石に迅矢はお粥は作れないけど、でも、薬くらいなら。
そう思い、迅矢が薬を取りに寝室から出ようと動き始めると、かねは小さく声を出した。

「…化粧落としたい。」

確かに、ばっちりとされているそれは未だに落ちることなく立派に存在している。

「明日にしろよ。」
「すぐ落とさないと肌荒れるもん。」

迅矢は明日にしろと言ったが、肌が荒れると言われては何も言い返せない。
美容に気を付けていることも迅矢は知っているし、かねの肌が荒れるのも嫌だ。
迅矢も職業柄するが、楽屋で落としてくることが殆どだ。
少し息苦しいというのもある。
そうなると、迅矢は許可しないわけにはいかなかった。

「…メイクだけだからな、シャワーはだめ。」
「…わかった。」
「なら、服も脱げ。お前のスウェット出してやるからそれにしろ。」

どうせなら、その服はやめた方がいい。
病人の着るようなものではないし、それこそ息苦しいだろう。
寝室のクローゼットを開け、端の棚に触れる。
そこから下着とスウェットをそれぞれ取り出し、それを持ったままかねの元へと戻った。
これは、迅矢が以前かねのために買ったもの。
下着も、スウェットも、化粧落としや乳液、などのメイク類も全部だ。
下着とスウェットを持ち、かねを支えながらゆっくりと脱衣所へ向かった。
脱衣所の扉を開けると、そこには洗面所がある。
かねは無意識ながら手慣れたように洗面所の棚から必要なものを取り出していった。
急に倒れないようにしっかりと見張りながら、タオルを用意する。
いつもより時間は掛かったが、しっかりとメイクを落とし、用意していたタオルに顔を埋めた。
素顔になると、かねから加弦に戻ることがよく分かる。
それから持っていた下着とスウェットに着替えさせる。
流石に着替えるときは意識が朦朧としながらも出て行けと突かれ、脱衣所から出た。
脱衣所の前で待っていると、五分くらいしてからやっと出てきた。
何をしていたのかと思えば、自分が着ていた服が綺麗に畳んであった。
こんな状態のときにそんなことしなくてもいいのに、と思っていても迅矢は言わない。
そんなこと、言えない。
それは加弦の性格の問題だからだ。
そのままの足で薬を飲ませ、額に冷たいシートを貼ってまた寝室へと戻る。
このシートも、薬同様加弦が買って来てくれたもので、前回の迅矢の発熱の際には重宝した。
そんなとき、急に加弦はソファーでいいなんてことを言い出して、まったく何を考えているんだか。
有無を言わさずベッドへ連行し、そのまま寝かせた。
寝息が立ったことを確認してから、迅矢はシャワーを浴びに寝室から出た。


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2017/06/12 20:06 | 創作BL / 秋吉と金橋

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