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2026/04/05 00:55 |
e01---涙色の声と共に
「かね、は?」

食事が終わった昼休み、仲間に教室の前の廊下で言われた言葉を上手く復唱できず、そのまま脳内に送り込むことも出来なかった。
だからなのか、とても不恰好な言葉として出てしまったと思う。
するとそいつは、もう一度さっきの言葉を繰り返した。

「かねはし、かづる。」
「かねはし?」
「そう、金橋。金橋加弦。」

金橋加弦。
人の名前だろうその言葉を聞いても、思い当たる節はない。
分かることは、男の名前だということだけ。
こいつと同じ、自分の仲間だということでもない。
見ず知らずの名前が出てきた理由が、未だに分からなければ、その理由の説明さえもまだ受けていないところだ。

「で、その金橋がなんだって?」

その名前が出てきた理由が分からない、と理由を述べるように追求した。
すると、そいつの口からは、拍子抜けする言葉が飛び出した。

「似てんの、お前に。」

ただ冷静に、今まで通りに言葉を紡ぎ、そのまま言葉を発したのだろう。
だが、その言葉の真意が理解できず、思わず間抜けな声が溢れてしまう。
その間抜けな声を聞き、ふ、と笑ったそいつは、その次の波で笑いを堪えるようにしていた。

「会ってみれば分かる。多分、他の連中が見ても分かんないだろうけどさ。俺だけじゃない、あいつらも同じこと言ってた。俺らが、みんな感じたことだ。一回、会ってみろよ。」

俺らとはまた違う感想を持つかもしれないし?
そう言われ、少し興味が湧いてきた。
次々と仲間の名前を出され、そいつらが揃いも揃って、自分と金橋が似ているというのならば、興味深い。
更に詳しく話を聞くと、似ているというのは一般論で、ということではないことが分かった。
容姿も少しだけど似ている。だが、すごく似ているというほどではないらしい。
雰囲気が、というわけでもないらしく、他人が見ても、似ている箇所など思い当たらないようだ。
それでも、自分を除いた仲間四人が、その金橋加弦を目撃、接触した際に、同じ印象を持ったという。
個々に感じたそれを自分の発見として披露したところ、個々それぞれが同じことを言い、首を傾げながら笑ったとのこと。
何が、と聞かれると、全員がずばりと答えることが出来ないが、何かが、何処かが、似ている、という結果だった。
益々、自分の眼で確かねたくなった。

思い立ったら即実行。
仲間から聞いたクラスの扉を開け、中へと入る。
クラスの半数くらいの視線を浴びていることも分かっている。だが、目的はただ一つ。
奥から二列目の一番前の席。

「金橋?」

奥から二列目の一番前の席に座ってるのがそうだから。
そう言われた通りに足を運び、座っている奴に問い掛けた。

「ちょっといい?」

相手は驚いたような顔をして、こちらを見ている。
こっちが初対面ということは、当然相手も初対面のはず。
急に知らない相手に話し掛けられたら、少しは驚くものだ。

「え、いいけど、なに?」

驚きを隠せないように言葉を返してきた金橋は、目を左右させながら、動揺しつつも要望に答えた。

場所を階段の踊場に移し、壁に凭れ掛かる。
そして、今、街でよく聞く音楽のサビの部分を軽く歌ってみる。

「この歌、知ってる?」
「う、うん。」
「ちょっと、歌ってみて。一緒に歌うから。」

そう告げて、そのまま歌を走り出させた。
最初の出だしが少し遅れたが、ちゃんとついてきている。
主旋律を歌うだろうと判断し、すぐさま自分の歌をハモリに切り替えた。

たった数十秒、三十秒もなかっただろうその歌は、自分の中に革命を起こした。
今までの中で、これまでの人生の中で、一番声が重なって、溶け合って、同調し合っている声は初めてだ、と思った。
今までで一番綺麗な旋律。
練習をしたわけでもなく、ただ単に、偶然知っていた歌を口ずさむように歌っただけなのに、この感覚。
金橋の若干枯れたような擦れた声が、旋律を奏でると、こんなにも耳に心地よく聞こえる。
何より、自分の声とのハーモニーが驚くほど良かった。

「金橋。」

金橋を呼んだ声が、いつもより震えているのが分かる。
歌わせたのは、ほんの思いつきだった。
確かねるも何も、どうしていいかも分からず、第三者が見る眼ではなく、自分の眼で、当事者の眼でみるのは違う、と内心分かっていたのかもしれない。
だからこそ、直感に頼るしかないとも思った。
直感で、自分は金橋と歌うことを選択した。
だが、その結果は予想以上だった。
最早、仲間たちが言っていた似てる似てないはこの際どうでもいい。
こんなにも興奮する人間が、この世に存在するのかと思うほど、自分の興奮が際立った。

「俺、お前に興味があるんだよね。」

如何にも呼び出す前から興味があったかのような言い方をしたが、さっきまでと今では興味の度合いも意味もまるで違う。
たった今、この瞬間から、仲間たちの意味とは違う意味で、興味が湧いてきた。
これほどの興味を人間に対して持つのは、久しぶりの感覚だった。

「俺、秋吉迅矢。よろしく、金橋加弦。」

とりあえず、すっ飛ばしていた自己紹介をしよう。
話は、それからだ。


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2017/06/11 20:32 | 創作BL / 秋吉と金橋

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