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2026/04/05 00:47 |
赤と黒の蝶  其の参 過去
- 四年前 -

南条邸近くの通りにて一人歩いている黒髪の少年に、来夏は後ろから声をかけた。
「南条紫蓮、だな。」
その言葉を受けた少年はふと歩くのを止め、首だけ後ろを振り返った。そして、顔を顰めてから来夏に向けて問いかける。
「…どちら様ですか。」
最初の印象は良くなかったのだろう。同じ年頃の同性でも、雰囲気で分かることもある。疑いや警戒の眼をしている少年に対し、余裕を持ち、自分が主導権を握っているかのように堂々と、媚びることなく少年を見ていた。怪しくも人を嘲笑うかのような不敵な笑みを浮かべている。
「花山来夏。そう呼べばいい。」
来夏は我が名を名乗る。すると少年は益々顔を顰めた。そして首だけを来夏に向けていた状態を止め、身体を来夏の方へ向ける。
「…花山、来夏…。知り合いにそんな人はいませんが。」
少し不満そうに、また不機嫌そうに少年が言い切る。すると、来夏は少年のその言葉を肯定した。
「当たり前だ。初対面だからな。」
来夏の態度は初対面の人に対するものとは思えない。最初から相手を格下と決めつけ、大きすぎる態度をとる。来夏は初対面の少年に余談も入れず、本題を突き出した。
「お前、死んだ両親の多額の遺産を相続しただろ。その遺産を狙っている浅はかな古狸がいる。そこで、俺に依頼しないか。」
うすら笑いをして少年を見る。少年は来夏の話を聞いた後、益々顔を顰めて問い返した。
「…依頼?」
その問い返しに、来夏はことの詳細を話す。
「その古狸を始末する代わりに、お前は俺のコネになる。」
そう言った後、少しの沈黙を挟み、少年は吐き捨てた。
「…そんなおふざけには付き合えない。他を当たれ。」
少年はそう吐き捨てると、身体を翻して先を歩いて行った。
来夏はこの道の先に少年の家があることを知っているため、それ以上深く追うようなことはしなかった。先を行く少年の後ろ姿を見て、ふと笑う。その笑いは少し状況を楽しんでいるようにも見える。
「南条紫蓮、予想以上だな。」
来夏は穿いているジーンズのポケットから携帯電話を取り出し、電話をかける。
「…久しぶりだな。聞きたいことがある。」
来夏はそれからしばらく話を続け、用が済んだ後、すぐに電話を切った。
そして、再度携帯電話を巧みに操りどこかへ電話をかける。
「俺だ。見張らせてるあの男、始末しろ。根回しはしてある。構わない。殺せ。」
会話の後、電話を切ると、携帯電話を元あったジーンズのポケットの中に入れ、腕を組む。そして少しの微笑と共に呟く。
「…嫌とは言わせないぜ。南条紫蓮。」

今日の紫蓮は、通っている楠ヶ丘中学部からの帰宅が、普段より数分遅かった。
「ただいま。」
玄関の扉を開けると、中からその音を聞いた千代が慌てて飛び出して来た。
真っ青な顔をして紫蓮を見る。
「紫蓮坊ちゃま!お帰りなさいませ。大丈夫でしたか?お怪我は?」
突然のことに紫蓮は少し驚き、何があったのか問う。
「いえ、大丈夫です。どうかしたんですか?」
玄関にて靴を脱ぎ、正面の廊下を歩く。その後に続き、千代が歩く。
「先程この近くで爆破事件があったらしいです。今速報で。それにご親戚の方が被害を…。」
テレビを見ると、確かに速報が流れている。そして、予定を変更して特別報道番組が組まれたようだ。被害者の名に南条がある。確かに南条の一族ではあるが、四親等までを親戚と表すことを基準にすると、親戚という近いものでもなく、大して面識はない人物。
時間は丁度、紫蓮が初対面の少年と別れた頃。まだ数分しか経っていないというのに、対応の速度が異常すぎるほど速い。まるで、始めからこの状況を想定していたかのように。
紫蓮がテレビを見ていると、家の固定電話が勢い良く鳴り出した。千代が急いで電話を取ろうとしたが、紫蓮がそれを制止する。そして自分で受話器を持ち上げ、会話に応じる。
「…はい。」
名字を言うことも、挨拶をすることもせず、ただ一言、いつもより低めの声を出す。
紫蓮は突然鳴り出した電話の先にいる相手に用があるのだ。紫蓮の声を聞いた電話の相手は軽やかな声を出す。
『ごきげんいかがかな、南条紫蓮。依頼されたことを実行した。感想は?』
電話の向こうにいるのは先程紫蓮に声をかけてきた少年で、依頼を実行したと言う。この発言により、紫蓮は聡明な頭で全ての欠片を繋げた。近くで起きた爆破事件と依頼、南条の人間と遺産を狙う古狸。
遺産を狙う古狸の南条を爆破事件という名目で―――。
こんな単純なこと、紫蓮でなくてもすぐ真意に気付く。比較的聡明な紫蓮は言われた瞬間に、〝依頼〟の意味を理解した。理解したと同時に電話の向こうの少年に向けて怒鳴るように叫ぶ。
「依頼した覚えはない!」
その紫蓮の怒鳴るような声に動じることもなく、少年は自分の都合を述べる。
『そう言うな。今、近くの路地にいる。今から来い。』
紫蓮の脳内で、この少年に逆らわない方がいいという方程式が成り立ち、その方程式が公式になろうとしている。それは紫蓮の本能がそういうのだろう。紫蓮は唇を甘噛みする。
「…分かった。」
渋々ながらも承諾し、受話器を元の位置に戻した。そして千代を見る。
「ちょっと出掛けて来ます。」
紫蓮の発言に千代は顔を真っ青にして紫蓮の外出を止めた。近くで爆破事件があり、外はとても危ない。それに加え被害者は南条の一族ときている。南条家の直系である紫蓮の身の心配をして当然だろう。
だが、紫蓮は少年に行くと言ったため、何があっても行かなければならない。行かなければ、後に何が起きるか判らない。
「坊ちゃま。紫蓮坊ちゃま!」
必死に止める千代を振り切り、紫蓮は家を出た。

南条邸近くの路地にいるのは来夏一人だった。
近くに落ちている小石を弾いて遊んでいるが、一瞬その動きを止めた。そして小石を見たまま口を開く。
「そんな恐い顔すんなよ。南条紫蓮。」
来夏のいる場所からは死角になるところにいた紫蓮はその言葉で姿を現した。紫蓮は両親に教え込まれたことを使い、気配を完全に消していたのにも関わらず、来夏はその気配をいとも簡単に見抜いてみせた。紫蓮は来夏を睨み付け、淡々と少し怒り気味に低い声を出す。
「…お前がやったのか。あの騒ぎ。」
紫蓮の鋭い視線を気にも止めず小石を使い、暇を持て余している。
「俺は直接手を出してないがな。」
そう言い、小石を爪で弾いた。そのふざけた来夏の行動に、紫蓮は苛立ち始める。だが、まだ理性を持ち、怒りを押し殺す。
「お前の差し金なら同じことだ。一体、何が目的だ。」
この紫蓮の一言を待っていたのだろう。来夏は眼の色を変えて、遊んでいた小石を捨て、紫蓮を見る。
「俺のことは一切詮索するな。必要なときに必要なことをしてくれればいい。」
その姿はあまりにも堂々としていて、王が臣下を見るような眼と、態度だ。憎憎しいほど自信に溢れた表情をし、紫蓮を見つめる。
「…法を犯すようなことはしない。」
紫蓮は言われたことを正しく理解し、少しの間を空けて答えた。
つまりはコネ。一番初めに会ったとき、来夏が紫蓮に要求したことだ。来夏は紫蓮を自分のコネに出来ればそれでいいのだ。来夏の今回の目的は紫蓮をコネにすることであり、それ以上を望んでいる訳ではない。
「それでいい。」
それ以上は望まない。
そんな意味を込めて、来夏は紫蓮に一言告げた。
「周りの誰にも危害を加えないなら。」
「それは保証する。」
紫蓮が条件を付け加えても、来夏は何も言わず、その条件もあっさりと呑んだ。余程、紫蓮を己の手中に収めたいのだろう。最低限の条件を呑むという来夏を前にして、紫蓮は長い沈黙の後に答えを出した。
「………分かった。とりあえず、様子を見る。」
断ることが出来ないから。
この状況で紫蓮が断れば、来夏は何をするか判らない。これ以上被害を出さないために、紫蓮は来夏のコネになることを決めた。
話が済み、来夏の目的が達成されたため、紫蓮はすぐさま自宅に帰るために身を翻したが、最後に振り返りもう一度だけ来夏を睨むように見た。
「最後に一つだけ言っておく。」
その眼は今までで一番鋭く、怒りを持った眼だ。
「お前なんか大嫌いだ。用があるとき以外、俺に近付くな。」
それだけいい、紫蓮は再度身を翻し、路地を後にした。
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2017/05/24 19:22 | 創作男女 / 赤と黒の蝶

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