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2026/04/05 00:47 |
【1月】金木犀、手紙、梨【新しい朝】
「ひーたん、ほんとに泊まってくの?」
「え、だめ?」

部屋に入り、荷物を下ろしてから、とりあえず、そう聞いてみた。
泊まって行くと最初から分かっていたらいろんな準備をしたが、何せ突発だからこそ、招き入れるための準備は何一つしていない。
そもそも、泊まりに来ると分かっていたら逃げていたかもしれない。
確認の意味で聞いてみると、ひーたんは何か問題があるのかというくらい、あっさりと答えた。
あの頃のひーたんはこんな性格だっただろうか。久しぶり過ぎて、いまいち感覚が掴めない。それよりも未だこの状況が都合のいい夢なのではないかと思えるほどだ。

「お客様用の布団とかないから、俺と一緒にベッドだけど…」
「いいよ。ほら、雪風、梨食うぞ」

今日は、一緒に梨を食べて、一緒に寝よう。

ひーたんはそう言って、キッチンで包丁を見つけて、梨の皮を剥き出した。
途中で、ひーたんはお客様なんだし、俺が剥くよと言ったら、ひーたんは俺がいるときにお前に危ないもの持たせたくないと言った。危ないものって、俺だって一人暮らししてるし、包丁くらい使えるよ、と返したら、いいから、と一言だけ言われた。
なんか、ひーたん前に比べて随分と過保護だ。
そして前に比べて、随分と甘い。


ひーたんと食べた梨はとても美味しかった。ひーたんは旬だから美味しいと言っていたけど、俺は旬だからとかじゃなく、ひーたんと食べてるからだと思う。
美味しい梨を食べながら、これが林檎だったら、うさぎの形に切れるな、なんて思い浮かべながら、林檎を買って練習してみてもいいな、とも思った。





「ひーたん、狭くない?」

シングルサイズのベッドの端ににひーたんが寝て、それから「ん!」と両手を伸ばしてくれた。その腕の中に入って腕の暖かさを再確認する。

「平気。お前こそ狭いだろ」
「ううん、ひーたんにひっついてるから平気」

お互いにお互いのことばっかり心配してる。
あぁ、やっぱり、ひーたんの腕の中は暖かいなぁ。

「ひーたん、腕痛くならない?」

ずっと腕の中にいたら、ひーたんの腕が痺れてしまって、寝るどころではないのではないか、と更に心配を重ねたが、ひーたんはなんてことない顔をしている。

「いい。寝てる間にお前が逃げて消えないようにしてる」

俺が逃げる可能性も考えていたんだ。と素直に思った。確かに、さっきも考えていたが、予め来ることが分かっていたら見つからないように逃げていたかもしれない。というか、十中八九逃げていただろう。
ひーたんはあの頃の思い出で、置いてきたうさぎに付属するもので、今の俺には必要ないものだ。
なのに、どうしてもこの腕を振り切ることが出来ない。
あの頃の、うさぎだった頃の方が、俺の考えや目的は一貫していて、ぶれていなかったように思う。
今はぶれぶれだ。
でも、それでもいい。ぶれぶれでも、なんでも、今この瞬間だけは難しいことは考えない。ひーたんの腕の中で、ひーたんと一緒に眠る。
そして、今までと違う、新しい朝を迎えよう。





あまりの心地良さに微睡みながら、ゆっくりと意識が浮かび上がる。頭がとても気持ち良い。

「…ひー…たん…?」
「悪い、起こしたか?」

そう言うと、ひーたんは俺の頭を撫でるのを止めてしまった。ずっと、頭を撫でてくれていたんだ。さっきまでの心地良さはこれか、と思考が行き着いてから、手を止めてしまったひーたんに甘えてみた。

「…ううん………ひーたんに撫でられるの気持ちいい」

ひーたんの胸に頭をぐりぐりと押し付けると、ひーたんはまた俺の頭を撫でてくれた。
優しく優しく撫でてくれて、また訪れた心地良さが頭をふわふわとさせる。

「ここから出たくないなぁ…」

ふと出た本音に、ひーたんがどんな顔をしていたのか分からない。けれど、意識が遠のく瞬間、頭の上で『ちゅっ』といったような気がした。それを最後にまた、俺の意識は彼方へと消えた。






「じゃあ、雪風、元気にしてろよ」

遅くまでひーたんと眠り、いい加減起きないとと起きてしばらくすると、ひーたんは帰ると言った。それはそうだろう。至極当たり前のことなのに、それをすんなりと受け入れられなかった自分に愕然とした。
来ると分かったら逃げていただろうに、帰ると分かったらそれを名残惜しく思う。
あんまりにも重症だ。

「………うん…」

小さな返事をして、地面を見つめている。ひーたんの顔が見れない。
外はやっぱり、金木犀の香りがする。これから金木犀の香りがする度に、この日のことを思い出してしまいそうだ。

「じゃあな」

その一言で、弾かれたように勢いよく顔を上げた。

「ひーたん!」

歩き出すために振り返ろうとしているところを、勢いよく飛び付く。

「うわっ!」

ごめんね、ひーたん、あとちょっとだけ、あとちょっとだけだから。
いきなり飛び付いた俺を、ひーたんはゆっくりと抱き締めてくれた。

「雪風、無理に帰って来いとは言わないけど、あいつらも会いたがってたぞ」

あいつら、とは、棚橋くんと国東くんだ。昨日寝る前に手紙のことを聞いたら、あのレターセットはやっぱり棚橋くんから貰ったと言っていた。そうだろうと思った。かわいいハリネズミのレターセットだった。ここでハリネズミではなくうさぎのセットだったら、それはそれで複雑だったかもしれない。俺はもううさぎじゃないのに、複雑な気持ちになるのか。

「…うん………」

これまた心許ない言葉だけの返事をして、抱き着く腕に力を込める。

「また来月来る」

ひーたんが優しく言ってくれる。
あの場所から、随分と遠いところへ来てしまった。それなのに、あっさりと言うひーたんに、なんとも言えない想いが湧き上がってくる。

「…うん………」

涙声を我慢して、なけなしの力で精一杯の返事をした。

「泣くなよ」

連れて帰りたくなる。

その一言に、また涙が溢れそうになる。
俺はひーたんのうさぎなんだから、ちゃんと面倒見てよね、なんて、うさぎの頃なら軽々と言えたことが、今ではこのざまだ。
恋人とか、そんな甘い関係じゃない。
それでも。

「冗談だよ」

次に逢ったときに、一緒に連れて帰ってって言ったら、連れて帰ってくれるのかな。
あの街に帰るのは到底無理なことなのに、ふとそう思う思考を止められなかった。



*----------*----------*----------*----------*----------*

これまた、ヤヒコさんのお宅の「うさぎコンビ」から。
先日の全く生かせなかった「新しい朝」の分を提出します。
ひーたんが帰って、その帰り道に棚橋に電話しながらちょっと惚気るようなところまで考えたのですが、なんとなく、雪風とひーたんを離したくなくて、ひーたんの帰り道は書かないことになりました。
電波ではない雪風はそれはそれで未知数だし、雪風に甘過ぎる溺愛ひーたんもそれはそれで未知数なので、キャラ崩壊もいいところなのですが、あくまでも二次創作なので、怒らないで。いやほんとごめんなさい。

この話の前日がこちら
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2017/01/09 14:18 | 二次創作

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