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2026/04/05 03:18 |
g01---無題
雑然とした部屋。
机に二つの椅子。
向かい合わせになるように置かれたその椅子の一つには既に男が座っている。
その男は、刑事だ。
比較的まだ若く、これから成果を挙げるだろうと言える年頃。
刑事、秋吉はこの事態を真摯に受け止めていた。
そんな秋吉の表情は少し暗い。
何か思い詰めているような、そんな印象を受ける。
ただ机に向かい、呆然とどこか遠くを見ているようだ。
すると、部屋の扉の開く音が聞こえた。
その音に反応するように秋吉は音のする方を見た。
そこには、警官に連れられた一人の男の姿がある。
警官に連れられたその男は普段着のような楽な服装をしているが手元には手錠がかけられており、服装のセンスとのミスマッチさがよく分かる。
男は横目で秋吉を見ると、今度正面で柔らかく笑った。
そして、少し切な気な顔をする。
それは、刑事である秋吉と連れて来られた男、金橋との関係性にあった。
秋吉は左手をゆっくりと動かして警官に見せた。
すると警官は連れてきた金橋を一人置いて部屋から出て行った。
椅子に腰掛けていた秋吉は立ち上がり、その場に置き去りにされた金橋の手を掴み、長方形の部屋の隅へと金橋を連れて行った。
そこは、唯一部屋の監視カメラの死角である場所。
そして、肩を持ち勢いよく壁に抑えつける。
二人しかいない部屋の中に、金橋の手首にかけられた手錠の接触音が響く。
濁ったような、金属音。
秋吉は金橋を壁に抑えつけたまま、金橋の顔を見て呟いた。
小さく、小さく、本当に呟くという言葉にが正しいほどに。

「…多分、死刑だろう、って。」

死刑。
それが、この男の処罰として妥当だと考えられた結論。
賛成多数での死刑。
一刑事という存在でしかない秋吉にはどうすることも出来なかった。
ただ、その結論に身を任せるしかない。
裁判がまだであっても、裁判員の意見はほぼ決まっている。
金橋はその結論が分かっていた。
結果が出なくても憶測でそうなるだろうという予想が立てられたのだ。

「らしいな。そう聞いた。」

ただ冷静に、淡々と口を動かす。
だが、秋吉を見る眼はどこか切なく悲しそうに思える。
そんな金橋を見て、秋吉は唇を噛み締めた。
そして、腹の底から一番低い声を出す。

「…馬鹿野郎ッ…!」

その声は、少し掠れていて、少し歪で、少し悲しさを含んでいた。
金橋を抑えつけている手にも自然と力が入る。

「………ごめん…。」

金橋は小さな声で謝罪を口にした。
秋吉に聞こえればいいように小さく、小さく。
秋吉は更に抑えつけている手の力を強め、金橋に近付いた。
顔を近付け、身体を近付け、食い付くように金橋の唇に噛み付く。

「…んッ………ぁ、…ぅん…。」

金橋の甘い吐息が秋吉の耳に入る。
秋吉は金橋の唇を貪るように荒らし、角度を変え、何度も舌を絡ませる。
絡ませては離し、貪っては離す。
何度繰り返したか知れない。
ただ時間の許すまま、唇を貪り重ね、舌を絡め、甘い吐息を吐いた。

「………愛してる…。」

そう告げたのは秋吉の方だった。
ただ純粋に、愛している。
死刑になるような罪を犯した金橋を、刑事である秋吉が。
違う道を行けばもっと違う結末だっただろうと考え、無念さが溢れる。

「…愛してる…。」

二度目の愛の囁きは秋吉ではなく金橋だった。
互いに愛している。
それが分かっていながら、無情な結末は刻一刻と近付いて来る。
それが堪らなく憎い。

「…生まれ変わっても、一緒にいたいよ。」

そう告げたのは金橋だ。
切なく悲しい言葉だった。
直に来る死する恐怖と永遠の別れ。
それが金橋の中の何かを着実に壊している。
そんな中、やっと振り絞った最後の言葉がこれだった。
もう、迫り来る別れしかない。
最後にもう一度、二人は唇を重ねた。
その後、しばらくしてから最終結論が掲示された。
処罰、死刑。


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2018/11/11 01:05 | 創作BL / 秋吉と金橋
a02---君の僕と僕の君と
「…んっ…。」

あーもう、どうしたらいいんだろう。
こんなの、蛇の生殺しだ。

確かに、泊ればいいと言ったのは自分だし、それ自体に後悔などしていないけれど。
でも、

「ほんとに生殺し気分だ…。」

眼の前には、すやすやと眠るかわいいひと。
一緒に寝ると言ったのは自分だし、
抱きしめて寝ることも、覚悟はしていたはずだ。
なのに、こんなにも動揺してる。

眠れない。
こんな状況で眠れるわけがない。
こんな、状況で。
ほんとに、生殺しだ。

「…じんや…。」

名前を呼ばれ、起こしてしまったかと心配すれば、ただの寝言で。

「寝言か…びびった…。」

寝言であることに驚いていると、更に思いも寄らない寝言が返ってきた。

「じんや…、すき…。」

好き、だなんて、ほんとに、どうしてくれようか、この状況。
泊りに来たのはいいけれど、先に寝てしまったかわいいひとを傍に感じながら、眠れるわけがない。
こんなにも胸が高鳴っているのに。
こんなにも、衝動を抑えているのに。

「だいすき…じんや…。」

あぁもう、ほんとにこいつは。

「心臓に悪い、まじで。」


本当に心臓に悪い。
どうしようもなくなる。
折角保っている理性をぶっ飛ばす気だろうか。

どうしようもなくなり、唇を近付けた。
触れるだけの、優しいキス。
すぐに離れたけど、少しの時間でも分かる唇の柔らかさ。
これ以上一緒に居たら、本当に理性がぶっ飛ぶんじゃないかと思った瞬間、目の前の双眸がゆっくりと開いた。

「じんや…。」

柔らかく笑う。
好きな笑顔だ。

「目が覚めて、じんやがいるのって幸せ。」

あぁ、ほんとに、もう限界なんですけど。
ほんとにほんとに、もう、限界を超えてしまっているんですけど、まじで。

「キス、して?」

…今、なんと言いました?

「おはようのちゅー、してほしいな。」

あぁもうもうもう!
どうなっても知らないからな。
責任持たないぞ。
全部お前が悪い。
俺は悪くない。
そう言い張ってやるからな。

「一回で済むと思うなよ。」

何回もしてやるからな。
ほんとに、限界なんだからな。
全部お前が悪い。
俺は悪くない。
自分のかわいさを嘆け。

俺は悪くない。

そう思いながら、望み通り、目覚めのキスを。



2017/06/12 20:13 | 創作BL / 秋吉と金橋
h02---無題
「んっ…!あっ、や、も…!」

後ろから勢いよく突き上げられ、喘ぎ声が止まらない。
もうすぐ年が明ける、そんな年末の夜。

「もうすぐ年越し、だなっ!」

迅矢の声と共に打ち付けられる激しい音が聞こえる。迅矢のセックスはいつだって激しい。今日も例外じゃない。

「やん…、ちょっ、じんや…!」

激しく揺さぶられ、いいところを突かれる。迅矢は分かっているんだ。俺のどこが弱くて、どこが好きで、どこが感じるか、そんなことを全部分かってて、それで攻めてくる。
両胸の乳首をきゅっと摘ままれ、更には俺の大事なところも扱かれる。

「姫始めも、しないとな。」

年末で、もうすぐ年を越すというのに、姫始めだなんて、馬鹿なことを言うものじゃない。
今、現在進行形で、このように組み敷かれているというのに。

「…今、してるの、にっ!」
「あと三回くらい出来るだろ。」

その言葉に呆れた。
あと三回だなんて、今、この行為で何度目だと思っているんだろうか。
そんなの、そんなの。

「むりっ…!」

むりだ、完全に。

「次は顔見て、したいし。」

それでも、そんなことは聞いていないというかのごとく、迅矢は行為をさらに激しいものにする。
激しい、とても、とても。
いいところを容赦なく突き上げて、速度を上げる。

「…む、りっ…だってば…っ!」
「年越す瞬間にいくのもいいよな。」
「…あっ!や、よくなっ…!」

一際深く抜かれ、一際深く突き上げられた。
それからの記憶は、ない。





「起きた?」

重い瞼を引き上げると、目の前には整った綺麗な顔立ちの男が覆い被さっている。
そうだ、迅矢とセックスしてたんだっけ、また意識飛んじゃった。と頭の隅で思いながら、掠れた声で迅矢を呼んだ。

「…じ…んや…。」

俺が呼ぶと、迅矢は俺の下っ腹をそのいやらしい指でゆっくりと撫ぜた。

「中、結構すげーことになってる。」

その言葉に自分の手をその位置に置き、掌でゆっくりと撫ぜてみる。すると、思った通り普段より明らかに膨らみを帯びている。
正月休みに入り、それなりに回数を重ねた夜もあったが、今日はそれを更に越える異常なほどの回数だ。それに伴い、俺の身体自体も悲鳴を上げつつある。
しかし、そんな俺の疲労を他所に、迅矢はさらにとんでもない言葉を続けた。

「まだ入るよな。あと三回はしたい。」

この言葉に、驚きで目玉が飛び出しそうになるのを必死に繋ぎ止めた。
あと三回ななんて、今でさえ何回目だと思っているんだ。もう常識から考えて無理だろう。というか、無理だ。いくら迅矢が平気だと言っても、俺が平気じゃない。これだけしておいてあと三回だなんて、どれだけ絶倫

なんだ、と罵倒してやりたいくらいだ。

「もう入んねぇよ。てか…死ぬ…。」
「じゃ、俺も一緒に死ぬ。」

当たり前のように即答され、言葉を無くした。
意味があって言った言葉ではなかったが、それにすんなりと返してくれた迅矢に少し胸動かされた。
すると、迅矢は見つめ合っていた眼を逸らし、左側にずれた。すると、俺の左肩に唇を添え、一気に吸い上げる。
少しの痛みと少しの快楽。
迅矢が肩にキスマークをつけているのだと理解し、そのまま捨て置く。
気が済んだのか、肩から顔を上げ、即座に俺の唇を奪い去っていく。
そして、指先で身体中を触れてゆく。
先ほどの肩口に始まり、首元、鎖骨、胸、腹、内腿、と続き、全部でどれくらい触れられただろうか。箇所にしておそらく、二十はあったと思う。
何も考えずそれを受け流していたときだった。

「加弦が寝てる間に結構つけちゃった。」

迅矢がそう楽しそうに言った。
最初は何のことかと思ったが、よくよく考えてみると、ある結論に辿り着いた。

「まさか、今の全部キスマークのとことか言わないよな。」

今指先で触れた二十はあっただろうあの肌に、全て、つけたのだろうか。

「正解。」

微かな希望を持って告げたにも関わらず、迅矢は満面の笑みで答えてみせた。
まさか、本当に、全部。
キスマークをつけること自体は何も言わない。確かに仕事に差し支えがあるようではいけないが、今は正月休み中で会社にもまだ行く予定はない。
とはいえ、その指で触れた数がその数と一致しているならば、どう考えても多すぎるだろうと思う。

「おまっ!ふざけんなよ!」

そう声を荒げた。
流石に、流石に多すぎる。これが消えるまで何日掛かると思っているんだ。
軽くならば一向に構わない。軽いと比較的早めに消える。だが、これらは違う。思いっきり強く吸われ、しっかりと形が残っている。
普段からつけるならば消えやすいようにつけろと言っているにも関わらず、それでは意味がないと消えるまでに何日も掛かるつけ方をする。
これは、付き合う前から、いや、俺が付き合うと意識する前から、迅矢からのプロポーズを受ける前から、そうだ。

「とりあえず前でこれだけ。バックしてるときにもつけてたから、後ろもすげーよ。」

迅矢にそう言われ、思考が止まりそうだった。
前で、これだけ。
うしろ、も…?
必死に考えていると身体を軽々と持ち上げられ、ひっくり返された。そして尻を高く上げられ、迅矢に向かって尻だけ突き出しているような体制になる。
そのような体制になり、迅矢が見ていると思うと、羞恥でおかしくなりそうになる。
それを感じ取った身体は迅矢に向けられている蕾の部分をきゅ、と締め付けてはひくつかせ、中に入っていた迅矢の精液を垂れ流した。
そして、そのまま迅矢の指が身体に触れる。
先ほどと同じように、一つずつ丁寧に触れられた。
背中、腰、尻、と指が滑る。
後ろは尻の部分が一番多いらしく、尻の至る所に触れられた。挙句、蕾の真横まで触れられて、気がおかしくなりそうだった。
そんなこところにまで、つけていたなんて。

「浮気防止のためにね。」

迅矢は、そう少し低めの声色で話した。
心配しているのだ、迅矢は。
不安なのだ、迅矢は。
俺が、浮気して、迅矢から離れていくと思っている。
俺が誰にでも足を拓く淫乱だとでも思っているのだろうか。
こんなにも、迅矢に惹かれ、迅矢から離れられないというのに。
だからこそ、迅矢のプロポーズも泣きながら受けたのに。
迅矢は、俺から離れたらだめになる、だから離してやれないと、しきりに話した。
でも、それは俺も同じことで、迅矢から離れたら、俺がだめになる。俺も迅矢を離してやれない。

「俺、ほんとにお前のこと離せねぇわ。」

何かを感じたのか、迅矢が呟いた。
そして、迅矢の熱くて硬いものが俺の蕾の中へと入ってくる。
俺だって、離せない。
そう思った瞬間に、入ってきた迅矢をきつく締め付けた。



2017/06/12 20:12 | 創作BL / 秋吉と金橋
e02---涙色の声と共に
快晴。
雲一つない、快晴。
天気が良くても、何も変わらない、いつもと同じ日常。
そう、いつもと同じ、日常。
いつもと同じように、起きて、身支度をして、学校への道のりを歩く。
何も、変わらない。
今日はまだ、何も変わらない一日のはずだった。



思い起こすと数日前、同じ学年の対照的な二人組に話し掛けられた。
話し掛けられたというのは最終結論であり、厳密にいうと違うと思う。
話し掛けられる更に数日前、その二人は別々に話し掛けてきた。
そう、別々に。

二人のうち、先に声を掛けてきたのは、やたらピアスと指輪をしているいかにも悪いことをしています、という風貌の男だった。けれども、その印象とは対照的によく笑う男だとも思った。怖そうな風貌とはどうも性格が結びつかないように思えた。
第一印象は、「面白い奴」だ。
更にその同日、今度はやたら背の高い、モデル風の男が声を掛けてきた。
金髪がよく目立ち、話し掛けられたこと自体に驚いた。
驚いたというか、驚愕、だ。
常に、本当に、終始笑顔を絶やさず、先立って来た男の笑顔も印象的だが、この笑顔も印象的だった。印象的というか、抜けない。
第一印象は、もちろん「笑顔の奴」だ。

そんな二人が、今度は同時に話し掛けて来たもんだから驚いた。
話し掛けられる理由も分からないまま、適当に話を合わせていたが結局最後まで何故話し掛けられたのか理由が分からない。
二人はある程度話すと満足したのか、にこやかに去って行った。

更にその翌日、今度の来客は上級生だった。
来客というと、それこそ語弊があるかもしれない。
二人組の男で、尚且つ上級生。
昨日までの同級生とは違い、流石に声を掛けられたときは今まで以上に驚いた。
更には、声を掛けてきた言葉が「そこのかねちゃん。」だ。
上級生の二人は、こちらを舐めるように見ていた。
そして、少し話をした。他愛もない、なんでもない話だったけれど、何故声を掛けられたのかだとか、そんな詳細は一切分からなかった。
だが、声と雰囲気で、最初に呼び止めたのが背の小さいやたら美人の先輩だということが分かった。
美人というか、プライドが高そうと言った方がいいのだろうか。初めて見る人たちだが、女王様と家来という図がすぐに頭の中に過った。
家来っぽい人、あとはやたら遠慮がちに話をする先輩だ。
二人の印象はそんなもんだった。
そして、今日。



今日は、普通の日だと思っていた。
今日もいつもと同じ、普通の日で、普通に昼休みを過ごしていた。
弁当も食べたことだし、iPodを鞄から取り出して曲でも聞きながら過ごそうかと思っていた矢先のことだ。
目の前に影が出来、さらにはその正体に驚いた。

「金橋?」

本当に、驚いた。
その風貌、雰囲気、醸し出すオーラ、情熱的な瞳。
何を取って見ても、自分が話し掛けられる要素など何もなかった。
何故、話し掛けられたのか分からない。
それは数日前から続いている奇妙な訪問者と同じだが、その比ではなかった、明らかに。

「ちょっといい?」

厚い口唇が言葉を紡ぐ。
思考が、正しく機能しない。
この男、何者だ。

「え、いいけど、なに?」

動揺を隠せず、眼はその男の顔を行ったり来たりと落ち着かない。
本当に、何故話し掛けられたのか分からない。
何か悪いことでもしただろうかと自分の行動を思い返してみるが、思い当たることなど何もない。
逆に言うならば、平凡に過ごしてきたこの日常のなかの異端である出来事といえば、招かざる訪問者くらいだろう。
彼もその一端なのだろうか。

場所を階段の踊場に移し、壁に凭れ掛かる彼と向かい合う。
すると彼は、今、街でよく聞く音楽のサビの部分を軽く歌ってみせた。

「この歌、知ってる?」
「う、うん。」
「ちょっと、歌ってみて。一緒に歌うから。」

いきなりそう言われて、どうしようと思ったが、とりあえず歌を紡ぐ。
あまりにもいきなりだったため、最初の出たしが少し遅れてしまったが、ちゃんと歌えていると思う。
何より、今までの訪問者は当たり障りのない話をしただけでこのようなことはなかった。
戸惑いが歌に表れていないだろうかとも考えたが、歌えることは気持ち良かった。
主旋律を一緒に歌うのかと思えば、彼はすぐに自分のパートをハモリに切り替えた。
一通り歌い終え、彼を見ると彼は先ほどまでの彼と違って見えた。
何より、その瞳が違う。どこがどうとは表現出来ないけれど、間違いなく先ほどまでとは眼差しが違う。
やはり、歌がいけなかっただろうかと萎縮しかけたときだった。
彼に名を呼ばれたのは。

「金橋。」

呼ばれた声が、先ほどまでよりも震えているように感じる。
それほどまでに歌がいけなかっただろうか。
音痴だと言われたことはないが、上手いとも思えない。
やはり、歌ったのがいけなかったのではないか。
ふと、頭にはそれしか思いつかなかった。
思い切って謝ってしまおうかとも考えた瞬間、彼は再度口を開いた。

「俺、お前に興味があるんだよね。」

その言葉に、驚く。
興味があるというのは、どういう意味だろうか。
この歌なのか、それとも歌う前、目の前に現れたときからなのか、話の内容がまったく理解できなかった。
興味とは、どういう意味だっただろうか。
頭が回転してくれない、いつの間にか停止した思考も停止したままだ。

「俺、秋吉迅矢。よろしく、金橋加弦。」

彼はそういい、軽く自己紹介をしたあと、ふんわりと笑った。
ただ、ふんわりと、優しく、本当に優しく。
ただ、笑った。

今日も何も変わらない一日だと、確かにそう思っていた。
だが、違った。
今日は、人生を変えるほどの分岐点である日だった。
人生を変えるほど、否、人生が変わった、日だった。



2017/06/12 20:10 | 創作BL / 秋吉と金橋
d02---王宮不伝説物語
「…んっ…!じ、もっ、あぁっ!」

部屋中に卑猥な音が響く。
それと同時に男の喘ぎ声も同じく響いていた。

声の主は王の寵愛を一身に受ける妾。
否、男のことを妾と呼んでいいのかは定かではないが、だが、王の正室でも側室でもない男を表す言葉など、この言葉以外存在しないように思う。
男娼、と割り切れればいいのかもしれないが、この場合、男娼と称するにはあまりにも無粋であった。
遊びではないということが、この二人には重要な部分であるからでもある。

王は妾の濡れ高ぶった性器を厚い唇につけ、その口内へと招き入れていた。
本能の赴くまま、その口内で妾の性器を愛撫する。
じゅぷじゅぷと聞こえてくる水音が厭らしい。
その音で王は妾の性器だけではなく耳までも犯してゆく。
性器の表皮を丁寧に剥き、その芯へと舌を這わす。
裏筋を舐め取り、ゆっくりと堪能しては、速度を速めて妾の余裕や理性を無くそうとする。
妾の艶やかで艶めかしい声が部屋の中に充満する。

「…も、でちゃっ…!じんやっ!」

妾が欲望を抑えきれずに果てそうだと王に告げても、王は止めようとはしない。
尚且つ、先端の窪みに舌先をねじ込み、欲望が果てるのを促そうとする。

舌先をねじ込んだ後、そのまま歯でその部分を甘噛みする。
すると、妾は悲鳴に近い高い声で鳴き、そのまま欲望を放った。
その喉奥に放たれたその欲望を、王は一飲みにして、ごくん、と喉が鳴る。
ずるっ、っと妾の性器を口から出し、唇を親指で拭い、一言呟いた。

「ごちそうさま。」

行為が一段落し、ようやく喋る余裕が出来た妾が王に向かって言葉を放った。

「いつも、…いつも飲まないでって言ってるのに。」

いつもいつも、王は妾の性器を愛撫する際、妾が飲み込むなという欲望を飲み込む。
王には、妾の欲望を飲み込むことに対しての抵抗がない。
それが精液であることは重々承知の上だが、妾のものならば、と最大限の寵愛を見せた。
それと同時に、妾も王の精液を飲み込むことへの抵抗がなく、自らが飲み込むにしてもなんら支障はないというのだ。
自分はいいが、王はだめ、そういう考え方をしている。
妾は王の精液をとても神聖なものだと考え、世継ぎを作る上でなくてはならないものであるということも理解している。
そのため、王の精液を無駄にすることなどない。
王の射精の量は人並み以上であるが、それをも全て飲み込もうとする。


妾は王の御子を身籠れないことを無意識に悔やんでいるのか、ふとした部分で王に尽くそうとする。
だが、王が自分にすることに対しては、どうも納得がいかないらしく、いつも嫌がる。

「いいじゃん。飲みたいんだから。」

王はそんな妾のことなどお構いなしでいつもそのまま飲み込む。
王も妾と同じく、妾の精液を無駄にすることのないようにしているのだ。
王の眼が妾を見つめる。
欲望に満ち溢れたその眼に、吸い込まれそうだ、と妾はいつも思う。
王が端正な顔立ちのため、真剣な眼で見られると胸が高鳴るのだという。

「…じんや…、好き、だよ。」

思わず溢れ出た言葉。
王が好きだ、と確信を持ち、そして、その寵愛を感じることにより、更に深く愛するのだと分かる。
妾がそう呟くと、王は妾の身体に覆い被さり、唇を塞いだ。
ねっとりと舌を絡ませ、唇を貪り、貪欲なまでに唇を犯してゆく。
先ほどの水音と同じようで少し違う水音が響き渡り、妾の苦しそうで、尚且つそそる吐息が聞こえる。
充分に舌を絡ませた後、少しは気が済んだのか、それでも名残惜しそうに唇を離した。


「今、俺、お前のこの身体を、どうやって悦ばせてやろうかとか、どうやって気持ちよくさせてやろうかとか、考えてる。…どうしてほしい?さっきは銜えて舐めて、しゃぶってやったけど、次は何がいい?もう俺もそ

ろそろ限界だから、挿れてもいいし、俺の銜えたかったらそうすればいいし、舐めてほしいところがあるなら、舐めてやる。」

そう告げた王は色気が漂っていて、とても色っぽい。
そんな姿を見ていると、妾は王に見惚れる。
こんなにも素敵な人に、自分は抱かれているんだ、と思うと恥ずかしいような、嬉しいような、と混乱の元になるのだ。

「………じゃ、挿れて?」

妾はそう言うと、自分で足を開き、尻の肉を掴み上げた。
ひくつき始めている穴がよく見える。
その穴は、連日王の性器を銜え込んでいても、何度でもひくつき、締め付け、王と王の性器を興奮させる。
きゅっと締まったそこが、解されればその先はとても心地よい巣窟になるのだろう。
生理的に出る涙を眼に溜めて、頬と耳を赤らめる。
その顔は欲情している顔で、王の興奮を更に駆り立てた。
顔が誘っている。
そう思った次の瞬間、妾は言葉を発した。

「挿れて、激しく突き上げて。それで俺のナカに全部出して。一滴も零さないで。」
「そんなに煽ってどうすんの。」
「じんやが、大好きだから、じんやのがほしい。俺に、ちょうだい?」

王は、妾が広げた尻の肉を妾の手の上から更に押しのけ、穴をより際立たせた。
ひくつく穴がとても厭らしい。
その穴はこれから訪れる快感をよく知っていて、それが特別甘いことも知っている。
そのため、王の顔が徐々に近付くにつれ、更にひくつき始めた。
王は綺麗な形の唇から長い舌を出し、その穴へと近付けた。
そのまま丁寧にその穴を舐めていき、穴を濡らしていく。
充分に濡らすと、舌先をその先へと押し込む。
途中、妾の声が漏れるのが聞こえた。
そのまま指を挿れ、巣窟を掻き回す。
徐々に指を増やし、指を根元まで三本入れたところで、指を引き抜いた。
代わりに、既に存在を主張している性器をそこへと当てた。
そして、そのまま勢いよく押し入った。
激しく揺さぶり、妾の吐息がよく聞こえる。

「あっ…、も、きもち…っ!やんっ!もっ、いっちゃ…!」
「いけよ。」

興奮からか、王も妾も絶頂が近い。
すぐさま絶頂を予感し、王は腰の速度を速め、小刻みにする。
王の性器を纏っている内壁がぎゅっと締まるのがありありと分かる。
そして、王が最後のひと突きをすると、妾は声を荒げて絶頂を迎えた。
そのまま、王は再度小刻みに腰を揺らし、自らも絶頂を迎える。
腰を小刻みに動かすと、王の精液が妾のナカへと注ぎこまれることが分かる。

「…ん、…きもち…、じんや、好き…愛してる。」
「俺も、愛してる。」

そうして、愛を囁く。
永遠の愛を、二人の、最初で最後の愛を。

これは、王と妾、二人の日常のほんの一部である。



2017/06/12 20:08 | 創作BL / 秋吉と金橋
f02---立入禁止領域
「何で外で待ってんだよ。」

十分だけ待つと言われた電話を切ってから約五分。
それほど遠い場所でもないところへ行くのに十分も多すぎるとは思う。
それでも十分と言ったのは、多く見積もって、たった今から渋滞になっても間に合うだろう時間配分だからだろう。
十分だけ待つと言ったかねは、いると思ったコンビニに確かに居た。
だが、コンビニの中には入らず、外にいて、ごみ箱の付近に存在していた。
店内にいればそれなりに快適に過ごせたはずだ。
ありきたりな商品を見たり、雑誌を見たり、それなりに時間は潰せるはず。
それにも関わらず、店外にいたのはどういう理由だろうか。
迅矢がその姿を見つけ、いの一番に告げると口先を尖らせて小さく呟いた。

「…クラスの奴がいるから。」

同じクラスの奴がいるから、入れない。
そう理解してコンビニの中をそっと覗き込むと、確かに同じクラスの男子が数人集まっていた。

「そんな格好してるからだろ。」

そんな格好をしていなければ、普通の私服ならば、そのまま偶然だな、なんて言って少し話して、後腐れなくその場を後に出来たものを。
迅矢はそう思いそのまま言葉にする。
服装を引き合いに出すと、今度は服装を見て今更なことを言い出した。

「今日のスカート短すぎたかな…。」
「当たり前だ、ばか。女装なんてしなくていいっつってんのに。」
「…だって、人気アイドルの秋吉迅矢のオリキのトップが男だったら、いけないじゃん…。」

まただ。
また、かねは同じことを言う。
この言葉をその口から聞くのは何度目だろうか。
迅矢はよく飽きもせずにそればかり言えるものだ、と感心する。

「…帰るぞ。」

そう告げ、迅矢はかねの腕を引っ張った。
そのまま停めていたタクシーに乗り込もうと腕を引くと、かねは素直についてきた。

「…ほんとに、熱なかったんだよ…?」

最後に、縋るように迅矢に向けて言った。
迅矢だって分かってる、嘘なんて吐いてない。
それは充分分かっているんだ。

「準備してるときは、だろ。今はまた上がってきてる。」

そう言いながら、タクシーに乗せた。
迅矢はそのまま手を額に持っていき、熱を測る。
熱い。
やっぱり、熱が上がってきていると確信し、小さく舌打ちをした。
それからタクシーの運転手さんに出してくださいと告げる。

「…ん…、…え、ちょ、どこ行くの。」

行き先を告げなかった迅矢を見て、かねは不安そうな顔をした。
迅矢は不安そうな顔をしながらもしっかりと自分を見るかねのその顔が好きで。
もっともっと、見つめてほしいと思った。

「どこって、帰るんだろ。」
「どこに。」
「家に。」
「誰の。」
「俺の。」
「秋吉!」

途端、迅矢は名前を呼ばれた。
でもこれは、呼んでほしい呼び方ではない。
くん付けをされるような、作った呼び方ではなく素で呼んでいることが分かっている。
だからなのか嫌悪感はそんなにない。
苗字を呼ばれることが少ないわけではないからだ。
でも、それだとしても、嫌だ。
そんなことを思いながら迅矢がかねを見ると、少し怒ったような顔をしていた。

「分かってる?それを誰かに見られたらどうすんの。ここで降ろして。」
「そんな状態のお前だけ一人で下ろせって?嫌だね。」
「いやだ。」
「諦めろ、そんな状態のお前を素直に帰すつもりなんてない。」
「やだってば。」
「加弦、言うこと聞け。」

反論するかねを余所に、迅矢は両頬を掌で覆いしっかりと見つめた。
覆った頬が熱い。
熱のせいだと分かっていても、居た堪れなくなる。
眼と眼を合わせて、瞳の中の自分を見て。
しっかりと、確かに、確実に、括目させる。
これが一番いい。
こうすれば、七割方言う通りにする。
迅矢にはそういう確信があった。
すると、かねは見つめていた眼を迅矢から逸らし、小さく呟いた。

「………今日だけ、今日だけだからな…。」

その小さな呟きを聞いて、迅矢は少しだけ安心した。
これ以上熱が上がる前になんとかしたかった。

部屋の前でタクシーを降り、そのままかねを背負ってマンションの中へ入る。
背負ってみれば分かる。
やっぱり熱い。
タクシーを降りるとき、背負うことを告げると、歩けるからと抵抗した。
だが、次の瞬間、いい加減にしろと迅矢が放つと、案外素直に背負われた。
かねの心中を察するに、誰かに見られていたらどうしよう、という不安があったのだろう。
今のかねは女装をしているわけで、女性問題やスキャンダルになりかねない、と。
迅矢からすればそんなこと、今はどうでもいい些細なことだというのに。
迅矢に背負われてからは眼を瞑っており、心なしか呼吸も荒く感じる。
そのままエレベーターに乗り、部屋の鍵を開けて入り、やっと落ち着いた。
迅矢はかねを玄関にゆっくりと座らせ、今流行の最先端ブーツをゆっくりと脱がせてやる。
ゆっくりと、なんて少し語弊があるかもしれない。
少なからず心は急かされており、それが手の動きにも出たかもしれない。
ブーツを脱がし終えると、今度はかねを横抱きにして寝室へと向かった。
横抱き、俗にはお姫様だっこというのだろうが、そんなことを言ったら後でどんな言葉を返されるか分からない。
それは根底にかねが曲がりなりにも男であるという心理が働くのだろう。
以前迅矢がお姫様だっこをしてやろうかと言うとひどく返された。
寝室の扉を左足を上げて開け、中へと入る。
かねが見ていたら何を言われるか分かったもんじゃないが、迅矢の両手はかねを支えているわけだからその辺は勘弁してもらいたいところだ。
そのまま迅矢のベッドの上に降ろし、掛け布団を掛け、寝かせようとしたときだった。
かねがゆっくりと瞼を上げた。
先ほどより目が細く、虚ろになっている。

「薬出すから、飲んでもう寝ろ。」

薬と言っても、この薬でさえ、風邪を引き易い迅矢のためにかねが買って来てくれたものだ。
二度ほど飲んであるが、まだ充分に残っている。
それを飲めば少しは楽になるだろう。
迅矢は熱を出している人の看病なんて生まれてこの方したことなんてないけれど、以前かねがしてくれたようにすればいい、そう考えた。
熱を測って、温めて、お粥を作って、薬を飲ませて、ずっと傍に居てやること。
流石に迅矢はお粥は作れないけど、でも、薬くらいなら。
そう思い、迅矢が薬を取りに寝室から出ようと動き始めると、かねは小さく声を出した。

「…化粧落としたい。」

確かに、ばっちりとされているそれは未だに落ちることなく立派に存在している。

「明日にしろよ。」
「すぐ落とさないと肌荒れるもん。」

迅矢は明日にしろと言ったが、肌が荒れると言われては何も言い返せない。
美容に気を付けていることも迅矢は知っているし、かねの肌が荒れるのも嫌だ。
迅矢も職業柄するが、楽屋で落としてくることが殆どだ。
少し息苦しいというのもある。
そうなると、迅矢は許可しないわけにはいかなかった。

「…メイクだけだからな、シャワーはだめ。」
「…わかった。」
「なら、服も脱げ。お前のスウェット出してやるからそれにしろ。」

どうせなら、その服はやめた方がいい。
病人の着るようなものではないし、それこそ息苦しいだろう。
寝室のクローゼットを開け、端の棚に触れる。
そこから下着とスウェットをそれぞれ取り出し、それを持ったままかねの元へと戻った。
これは、迅矢が以前かねのために買ったもの。
下着も、スウェットも、化粧落としや乳液、などのメイク類も全部だ。
下着とスウェットを持ち、かねを支えながらゆっくりと脱衣所へ向かった。
脱衣所の扉を開けると、そこには洗面所がある。
かねは無意識ながら手慣れたように洗面所の棚から必要なものを取り出していった。
急に倒れないようにしっかりと見張りながら、タオルを用意する。
いつもより時間は掛かったが、しっかりとメイクを落とし、用意していたタオルに顔を埋めた。
素顔になると、かねから加弦に戻ることがよく分かる。
それから持っていた下着とスウェットに着替えさせる。
流石に着替えるときは意識が朦朧としながらも出て行けと突かれ、脱衣所から出た。
脱衣所の前で待っていると、五分くらいしてからやっと出てきた。
何をしていたのかと思えば、自分が着ていた服が綺麗に畳んであった。
こんな状態のときにそんなことしなくてもいいのに、と思っていても迅矢は言わない。
そんなこと、言えない。
それは加弦の性格の問題だからだ。
そのままの足で薬を飲ませ、額に冷たいシートを貼ってまた寝室へと戻る。
このシートも、薬同様加弦が買って来てくれたもので、前回の迅矢の発熱の際には重宝した。
そんなとき、急に加弦はソファーでいいなんてことを言い出して、まったく何を考えているんだか。
有無を言わさずベッドへ連行し、そのまま寝かせた。
寝息が立ったことを確認してから、迅矢はシャワーを浴びに寝室から出た。



2017/06/12 20:06 | 創作BL / 秋吉と金橋
c02---泡沫の君へ
暑い夏の日。
この屋敷に来てから、もうすぐ一ヶ月くらいだろうか。
詳しいことは分からない。というか、日付感覚がないのだ。
基本的にこの部屋から出ることはない。
というのも、最近まで部屋に鍵が掛けられていたからだったりする。
その掛けられていた鍵がどうして掛けられなくなったのか、理由は分からない。
けれど、少なからずあった威圧感はなくなったように感じる。
気のせいかもしれないけど。
でも、気のせいだとしても気が楽だ。
だからこそ、部屋のベッドの上で一日を過ごすことが多い。
今日も例外なく、ベッドの上だ。
もうすぐ来る。
あいつが。



秋吉迅矢。
おそらく本名なのだろう。
最初にあいつはそう名乗った。
迅矢と呼んでほしいと言われたが、とてもそんな気分にも気持ちにもなれず呼ぶときは、おい、だ。
最初は顔すらも見たくなくて、ずっと無視を決め込んでいた。
意味も無く気まぐれで話をするだけで、基本的にはなにもしない。
ただ、毎日この部屋に来ては俺の機嫌と腹具合を伺いに来る。
そう考えていると、離れたところにある目の前の扉がゆっくりと開いた。
そこには秋吉がいて、ゆっくりと部屋の中に入ってきた。

「腹空いてない?」

少し引き気味でそう問われた。
ほんの少し、眉が下がっていて、大型犬みたいな印象を受けるが、それを目の当たりにしても何もいう気にはなれない。
未だに、俺を監禁することを理解することも出来ない。
監禁とはいっても、手足を拘束されているわけでもないし、動きを制限されているわけではない。
ただ、動き回る気になれなくて動き回っていないだけで、行方を晦まそうと思えばそれが出来なくもない。
それでも、まだあいつのことを充分に知れていないからまだ動かないというのもある。
今はまだ知るというほどの気分にもなれない。
だからこそ、話は無視するし、特に反応もしてやらない。
とりあえず分かっていること。

―――俺のことを好きだっていうこと。

何で好きなのかとか、何処が好きなのかとか、そんなことは知らない。
聞いていない。
一度も聞いたことがない。
今までに接点なんてなかったはずだ。
もしかして、俺が覚えていないだけなのだろうか。
でも、どんな理由でも和解出来るとは思えない。

「別に。」

そう温度を捨てた声で両断した。
毎日機嫌を伺いに来ても、そうそう機嫌は上下したりしない。

「…そっか…。」

小さく、秋吉は呟いた。
昨日も一昨日もそう言ったからだろう。
どうしても、素っ気無くなってしまう。
それはどうしようもないことだ。
今の状況を考えれば、どうしようもない。

「じゃあ…、空いてきたら言って?」

相変わらず眉を下げながら告げた。
その姿は、本当に犬のようだ。
飼い主に怒られた犬のよう。
俺は飼い主なわけではないし、秋吉を犬のように扱ったこともないけれど。

「…また、様子見に来る。」

俺がいつもと変わらないのを知った秋吉は小さく溜息を吐いて、そう言った。
いつもだったら、そのまま、本当にそのまま、秋吉が扉の向こう側に消えるのを見送るはずだった。
でも、今日は見てしまった。
そのときの、秋吉の悲しそうな顔を。
その瞬間、俺の中に何か少しの、ほんの少しの変化が起きた。
俺のそんな変化を知らず、秋吉はゆっくりと扉の向こう側へと消えた。
いつもと同じように。
そう、見てしまった。
見なければよかったのに。
いつもと同じように。
そう思ったとき、俺はベッドから飛び出し、勢いよく扉に向かい部屋からも飛び出していた。



中庭に来ていた。
理由は、秋吉が見えたから。
秋吉が、中庭にいるのが見えたから。

理由はそれだけ。
そして、またもや見てしまった。
空を眺める秋吉の表情を。
その寂しそうな顔を。
少し芽生えた罪悪感。

「かね?」

秋吉は、部屋から出て中庭に来た俺に気付いたらしく、呼ばれた。

「中庭の花が見たかっただけだから。」
「え?」

口から出てきたのは、以前言われた中庭の花の話。
二人で見ようって誘われた、あのときのこと。

「綺麗だからって言ってた、じゃん。」

語尾は思ったより小さかったと思う。
いや、小さかった。確実に。
でも、秋吉はそんなことを気にしていないようだった。

「覚えて、たんだ。」

だって、声が、弾んでる。
少しの戸惑いと、少しの歓喜で、声が弾んでる。

「…別に。」

ぶっきら棒に、冷たく言ったつもりだった。
いや、つもり、じゃない。
確かにそう言ったのだ。
それでも、秋吉はとても嬉しそうだった。
嬉しいって、顔してる。
表情に出ている。
どうしようもなく嬉しいって、言葉じゃなくて、態度が言ってる。

「かね、こっちこっち。」

呼ばれて気付いたが、秋吉は花壇の方へと足を延ばしていた。
呼ばれて素直に秋吉の元に向かう。
すると、花壇の隅の方に小さいが風に負けず健気に花弁を広げる花が一輪咲いていた。
その場に屈む秋吉に釣られて思わず屈んでしまう。
他の花たちに紛れず、一輪だけひっそりと咲いている。
この一輪の花を秋吉は自分で見つけたのだろうか。
見ていると、この花のことを応援したくなってしまう。
負けるな、頑張れ。
そう、思ってしまう。
花を眺めながら、ふと視線を感じて、隣を見ると秋吉がこちらを見ていた。

「………なに?」

顔に何かついていただろうかと少しばかり考えるが何もつけるようなものがなかった。
だからこそ、素直に聞いてみた。
すると、秋吉はふわりと笑ってみせた。

「…俺、今すげー…しあわせ。」

その笑みは、笑顔は、とても綺麗で、こんな秋吉を見たのは初めてで、少しだけ動揺してしまった。
でも、その顔を見て、気付いてしまった、分かってしまった、知ってしまった。
その笑みの、笑顔の、意味を。
秋吉は、本当に、俺のことが好きなんだ。
気付いてしまったら、分かってしまったら、知ってしまったら。
気付かないふりや、分からないふりや、知らないふりが出来なかった。
秋吉が無意識に見せた四種類の顔を見て、俺の中で、何かが少しだけ変わった日だった。



2017/06/12 20:04 | 創作BL / 秋吉と金橋
a01---君の僕と僕の君と
「じんや。」

柔らかく名前を呼ぶ声が好き。

「遊び行こーよ。」

ふんわりと笑う笑顔が好き。

「聞いてる?」

拗ねて尖らせる唇が好き。

「聞いてる。どこ行く?」

そう言って、腕の中にある髪を梳く。
すぐ近くにある頭に心地よさと少しの安堵。
二人でいるときは周りなんて見えていない。
そんなこと、いつものことで、それで構わないと思っている俺たち。

誰もいない放課後の教室でも、
人が賑わう休憩時間の教室でも、
いつもこんな感じ。

俺の腕の中にすっぽり収まり、それを当たり前のように感じるこいつがとても愛しい。

「かづる。」

静かに名前を呼ぶと、
静かに返事をする。

「なに?」

その唇から出る声が、すごく好きで。

「カラオケ行こっか。」

その声をもっと聞きたいと思う。

「カラオケいいね。行こ。」

カラオケなら、二人きりでずっとかづるの声を聞いていられる。
そう思っていたら、

「じんやの声好き。」

と、不意打ちの一言。
思わず言葉を忘れていると、更に追い討ちをかけるように、

「二人っきりで、じんやの声独り占めできるね。」

なんて、かわいいこと言っちゃって。
あぁ、もう…。

「不意打ちすぎる。」

狙って言ったわけではないことが分かってる。
だからこそ、やられた、と思ってしまう。
そんなこと言っちゃって。
ほんとにもう。

「かわいすぎ。」

なんて、思わず本音が溢れてしまう。
そう告げると、今まで以上に柔らかく笑って、

「じんやは、かっこよすぎ。」

なんて。
まったく、ほんとにもう。
こんなに俺を夢中にさせて、どうするんだろうと思う。
もう何度目のもうか分からないくらいに、もうを連発してる。
だって、もう。

「好きすぎる。」

抑えられないこの想い。
あぁ、こんなにも、―――。

「やめた。」

そう一言漏らすと、かづるは不思議そうな顔をした。
そして、俺に向かった顔は不安げな表情になる。

「やめた。」

再度同じことを言う。
やめた、やめた、やめた。
二度目の言葉で、やっとかづるが口を開いた。

「…何を?」

何をって、やめたんだ、やめた。

「カラオケ。」

カラオケ、行くのやめよう。
その方がいい。
かづるが理由を聞く前に、次の行き先を決めてしまえばいい。

「その代わり、俺んちにしよ。」

「じんやの家?いいの?」

恐る恐る聞いてくるかづるに心擽られる。
いいの、って聞いてくるけど、いけないわけないじゃないか。

「いいよ。なんで?」
「ううん、じんやの家行きたい。」

そう言ったかづるはやっぱりかわいすぎる。
どうしようもなくかわいすぎる。

「泊まってけば?」
「え、いいの?ほんとに?」

ほんとに、って。嘘でこんなこと言わないのに。
さっきからいいの、ばっかり。
お前こそ、いいの?
無防備に俺んち来たりして。
無防備に俺んち泊まったりして。
ほんとにいいの?
自分で言ったくせに、自信がないんだ。
この想いが、暴走してしまわない自信が。

「嬉しい。」

そんな中、かづるがふと呟いた。

「ずっと一緒にいられる。」

うん、ずっと一緒だ。

「寝る前も、寝てる間も、起きたときも、一緒にいられる。」

うん、一緒だ。
ずっと一緒。

「じんや。」

名前を呼ばれて、それに答える。

「なに、かづる。」

するとかづるは、
少し照れたように、
少しはにかんだように、
少し不安なように
小さな声で言った。

「添い寝、してくれる…?」

あぁもう、ほんとにもう。
かわいすぎる。

「添い寝でいいの?」

そう聞き返すと、かづるはさっきよりも照れたように、

「抱きしめて、寝てくれる…?」

と聞いてきた。
あー、もうもうもう。
抱きしめて寝てくれる?
なんて、かわいすぎる。
それを望むなら、いつでも、いくらでも抱きしめて寝てやるのに。
望むなら、ずっとずっと。

「抱きしめて寝てやるよ。」

そう告げると、優しく微笑んだ。
かわいい。
この笑顔が好きで、この笑顔をずっと見ていたいと思うんだ。
微笑んでいるかづるを柔らかく抱きしめて、肩に顎を置く。
そして、首に顔を埋め、肌と髪の匂いを胸いっぱいに吸い込む。
とてもいい匂いで、この匂いさえ、心地よく、好きだと感じる。

「かづる、好き。」

耳元で小さく囁くと、かづるは俺の頭を撫で、髪をゆっくりと梳いてくれた。

「俺も、じんや好き。」

かづるはそう言うと、俺の頬に触れるだけのキスをした。

ほんとに、好きすぎる。
今でさえこれなのに、これから先はどうなるんだろう。
これから先も、一緒にいたいな。
そう思いながら、今度は俺から優しく頬にキスをした。



2017/06/12 19:39 | 創作BL / 秋吉と金橋
i01---白銀世界の赤
手術中。
そう点(とも)された部屋の前で、もう何時間待っているだろう。
確率は半分。
死ぬか、生きるか、どちらかしかないと。
そう聞かされたときは、目の前が真っ暗になった気がした。
でも、それでも、そう言いながら少し自嘲気味に笑う姿を見たら、何も言えなくなった。
この場にいるのは、加弦の両親と、俺だけ。
早く終わってくれ。
早く、加弦に会わせてくれ。
早く、一刻も早く―――。




目の前が、再び真っ暗になった。
一体、どういうこと。
なにが、なに。
え、なに言ってるの、ねぇ。
なんで、両親が泣き崩れてるの。
ねぇ、医師(せんせい)、何を、何を言ったの。
ねぇ、ねぇ、今、なんて、言った…?

『手術は成功しました。ですが、心肺停止になりました。』

目の前が、真っ暗に。



信じたくなくて、信じられなくて。
あんなに、笑っていたのに。
あんなに、楽しかったのに。
あんなに、好き合ったのに。
あんなに、愛し合ったのに。
そんな陳腐な言葉しか出て来なくて、どうしようもなくて。
死んだ?
もうこの世にいない?
もう、会えない?
もう、あの笑顔を見ることも、声を聞くこともできない?
…信じない。絶対に、信じない。



ふと気付くと、加弦の病室を訪れていた。
何も変わらない。
つい数時間前、加弦とここを出た。
加弦は笑っていたし、少しの間だけ、って言ってた。
なのに、なんで。
加弦の両親も、何も言えずに、言葉なくその病室にいて、時間が止まったかのようだった。
まるで、今にも加弦が、病室に入って来そうで。

『じんや!』
『さっきまで野球の中継やっててさ、』
『あ、雨降ってきたね。帰り大丈夫?』
『昨日ね、きゅうが来てくれたの。』
『何する?トランプでもしよっか?』
『じんや、だいすき。』

ほら、だって、ほら、ほら。
こんなにも、加弦の声が聞こえてくるっていうのに、なんで。
なんで今ここに、加弦がいない…?



「これ…。」

そう力のない声で話したのは母親だった。
加弦の、母親。
目線の先には、加弦の病室のテレビ。
そして、その横には見覚えのないビデオテープ。
表面のシールに、加弦の字で『両親と迅矢へ』と書いてあった。
三人で顔を見合わせて、そのビデオテープに慌てて駆け寄った。
手が震えながら、震えを抑えようと格闘しながら、そのテープをビデオデッキの中へと入れる。
どうしよう、手が言うことを聞いてくれない。

『ちゃんと撮れてる?』

再生すると、加弦の声が聞こえた。
あぁ、加弦の声がする。
加弦だ、加弦の声だ。

『ちゃんと撮れてるよ。』

そう答えたのは加弦の声ではなかったけれど、でも、聞き覚えのある声。
知っている声で、少し驚いた。

「…きゅう…。」

きゅうの声だ。
友人の中でも、親友と呼べるほどの友達。
そのきゅうと、加弦がどうして。

『母さんがおばーちゃんちの用事で来るの遅いし、迅矢は今から向かうって連絡あったからあと三十分くらいしたら来るかな。』
『それまでに撮り終われんの?』
『大丈夫、言うこと決めてあるし。あ、あとでこことか編集しといてね。俺、自分が喋ってるの見るの嫌だから、編集とか任せるよ。』
『はいはい。じゃ、迅矢が来る前に撮っちゃおっか。いくよ。さん、にー、いち、きゅー。』

その言葉と同時に、加弦がふわりと笑って、こっちを見た。
まっすぐな目で、まっすぐな瞳で、こっちを見てる。

『じゃ、まず両親へ。』

そう聞こえた瞬間、咄嗟にこの場に居てはいけないと感じた。
すぐにその場を離れようと動くと、加弦の母親に止められた。

「いいの、居て、加弦の言葉、聞いてあげて。」

両親へというから気を遣ったつもりだったが、加弦の言葉を聞いてほしいと言われた。
だから、そのままテレビの向こうの加弦に目線を向けた。

『これを見てるってことは、俺は手術中に死んで、今もうそこには居ないんだろうね。』

そう言いながら、少し悲しそうに笑った。
でも、すぐにまた笑い直して、唇を動かした。
加弦の両親への言葉は、とてもストレートで、素直で、愛らしくて。
生まれてきてよかった、産んでくれてありがとう、迷惑かけてごめん、でも感謝してる、だいすき。
そんな、子から親への、想いで溢れていて、それを聞いているだけで、涙が更に零れた。
どうしようもないほど、加弦の言葉に泣いた。
両親も泣いていて、部屋の中には三人の嗚咽と加弦のいつもと変わらない声だけ。
両親への言葉を締め括り、加弦は少し間を空けてから言った。

『…次は、迅矢へ。』

そう聞いた途端、加弦の父親が母親を支えながらその場を離れようとした。
だから、先ほどと同じように、俺も言葉を紡いだ。

「居てください。加弦の声、まだ続いてる。」

そういうと、何も言わずにまた元の位置に戻り、加弦に視線を向けた。



迅矢には、本当に感謝の言葉しかないよ。
でもね、わがまま言うと、約束、守りたかったな。
早く良くなって、迅矢と映画見に行ったり、ゲーセン行ったりしたかったし、野球もサッカーもしたかった。
でも、全部出来なかったね、ごめんね、約束したのに。
…あと、迅矢は俺が死んだら、泣いてくれるのかな…。
泣いてるよね、絶対泣いてる。迅矢は優しいし、すごく悲しんでくれてるんだろうね。
でも、ね、迅矢。悲しまないで。大丈夫だよ、俺。だからね、泣かないで。迅矢に涙は似合わないよ。
………ほんとは、デートもしたかったし、お泊りもしたかった。
…もっとキスもしたかったし、えっちだってしたかったよ。
最近ね、母さんが俺に恋してるのかって聞いてくるの。そんな顔してるのかな。
…恋、してるよ。間違いなく、迅矢に。
ずっと入院生活で恋なんてしたことなかったから、これが恋かなんて分からなかったし、今も分かってるかどうかなんて分からないけど。
でも、迅矢を好きな気持ち、これはきゅうへの思いや両親への思いとは違う。
俺は、これを、この迅矢への想いを、恋だと思ってる。
迅矢が俺を愛してくれてるように、俺も迅矢を愛してる。
そうじゃなきゃ、キスなんて出来ないし、えっちもしたいなんて思わないだろうし。
だいすきだよ、迅矢。
愛してる、心から。
………だからね、だから、俺が死んだら、前に進んでね。
前に進んで、また新しい恋して、結婚して、子供作って、幸せな家庭作ってね。
迅矢は子供好きだし、迅矢の子供ならかわいいだろうなー。
だから、だからっ…、俺のことはもう、忘れ、てっ………。



ふと、加弦の言葉が途切れた。
目の前の加弦は泣いていて、流れてくる涙を我慢しているようだった。

『………かね。』
『…やだ…。やだ、よぉー…。迅矢に、迅矢に忘れられたくない。迅矢に新しい恋なんて、してほしくない。』
『俺以外に、キスするのも、えっちするのも、好きとか愛してるって言うのも、全部やだ。』
『結婚なんてしないでほしい、子供なんて作らないでほしい。』
『だって、両方とも俺がしてあげられてないことなんだもん…。』
『もし、生きてても、両方とも、俺は迅矢にしてあげられない…!』
『かね。』
『分かってる、分かってるんだよ、ちゃんと分かってるの。』
『かね。』
『………ごめん、きゅう。…ごめん、ここ、編集しといて…、こんなの、迅矢に見せられないや…。』
『かね。』
『…きゅう…、俺、俺、迅矢がだいすき…。』
『迅矢と、離れたくない。死にたくもない。迅矢ともっと、一緒にいたい。』
『うん、かね、わかってる。わかってるよ。大丈夫だから。ね。…どうする?続き、撮る?』
『泣いちゃって上手く言葉に出来ない、ね。迅矢には一言じゃないとだめだね。』
『大丈夫?じゃ、いくよ?さん、にー、いち、きゅー。』
『迅矢、いままでありがとう、だいすき。心から、愛してる。』
『よし、これでいいや。きゅう、編集しといてね、さっきのとこ。じゃ、俺トイレ行ってくるから。』
『うん。じゃ、片づけとくよ。』
『………迅矢、俺は、かねに言われた通りに編集する気はない。全部、ありのままをお前に残すよ。だから、』


―――かねの全てを全身の全感覚に刻み付けろ。



「加弦。俺も、心から愛してる。お前だけを、愛してるよ。」





「金橋さん!」

悲しみに暮れた加弦の病室に、見覚えのある看護婦さんが来た。
勢いよく、走って来てくれたのだろう。
三人ともその人に視線を向け、その人の言葉を聞いた。

「加弦くんの身体に変化があり、再度医師の診察が行われ、奇跡が起こりました。心肺停止後から蘇生するケースは前例がないわけではありません。ですが、死亡が確認されてから息を吹き返し、自力で戻ってくること

は、奇跡です。加弦くんの執念と『生きたい』という意思が働いたのでしょう。極めて稀なケースですが、呼吸を始めています。しばらくすると意識も戻るでしょう。」

言われた言葉が、よく理解できなかった。
つまり、どういう。

「…もっと、もっと、分かり易く…。」

そう告げたのは他ならぬ、加弦の母親だった。
涙を止めて、ゆっくりと震える声で。
すると、看護婦さんは笑った。

「加弦くんは生きてますよ。」

その言葉に、三人同時に涙が溢れて来て、そして、抱きしめ合った。
加弦の命が救われたことに、心から感謝した。



「加弦!」

意識が戻った加弦の元に駆け寄り、加弦を見た。
まだいろいろなものがついているが、構わない。
酸素ボンベをつけたままの加弦は俺の方をしっかりと見た。
そして、呟く。

「…じ、んや…?」

加弦の声が聞けて、加弦の声に呼ばれて、こんなに神様に感謝したことが今までにあっただろうか。
自分の置かれた状況や、環境を嘆いたことなど一度もない。だからこそ、神様を恨んだことなんてなかった。寧ろ、命を取り留められたことを感謝していた。でも、それ以上に。自分の命を取り留めたこと以上に、加弦

の命を取り留めてくれたことを感謝した。

「加弦…。」

心なしか、声が震えてる。
どうしようもなく震えている。
今もまだ、これが現実なのか分からず、躊躇いと共に心臓を動かしている。
加弦の心臓も、ちゃんと動いてる。
それが、この上なく嬉しい。
今までの人生で、一番神様に感謝した瞬間だった。

「じんや、…だい、すき。」

加弦は酸素ボンベの向こう側から微笑みながらそう言った。

―――そのときの加弦の笑みは、儚げで今までで一番綺麗だった。



2017/06/11 20:49 | 創作BL / 秋吉と金橋
h01---無題
「で、なんなの。」

仕事帰り、自宅に戻ろうと会社を出て少し歩いたところでいきなり腕を掴まれ、無理矢理タクシーに押し込まれた。
それから着いた先は腕を掴みここまで拘束してきた男のマンションだった。
マンションの部屋に入り、いつも通りリビングへと向かった。
そして、このように半ば拉致された理由を尋ねてみた。
すると、拉致した男、秋吉は眉間に皺を寄せて息を吐いた。

「なんなのって、こっちの台詞だし。」

こっちの台詞と言われても、それこそこっちの台詞だ、と思う。
そう思いつつ、秋吉は不機嫌そうに続けた。

「今日二十四日なの分かってる?なのに自分ち帰ろうとするし、まじなんなの。」

確かに、今日は自宅に帰るつもりでいた。
今年のクリスマスイブは金曜日で、仕事が終わったら家に帰って寛いで、明日のクリスマスはどうしようかな、なんて考えていたところだった。
そんな考えを余所に秋吉はさらに言葉を続けていた。

「明日休みなのに、」

その言葉に、食い気味に反論した。

「そんなら、誰か、」
「誰かひっかけろとか言う気じゃねぇよな。」

そう言われて、思わず秋吉の顔を見る。
あまりにも声が真剣で、どう聞いても怒っているように聞こえた。
先ほどからの不機嫌さが怒りまできたのだろうか。
少し驚いて、しまったと思った。

「何が悲しくて恋人にそんなこと言われなきゃなんねーんだよ。」

その言葉にまた驚いた。
今、秋吉の口から、とんでもない単語が聞こえた。
何度も、何度も焦がれた単語が出たような気がした。

「セフレ、じゃなくて?」

そう小さく呟いた。
すると、秋吉はさらに眉間に皺を寄せて、先ほどより声を低くした。

「なにそれ。お前、セフレだと思ってたわけ?」

そのまま秋吉はスーツの上着を脱いで、近寄ってきた。
自分のネクタイを少し緩めて、俺のネクタイを引っ張った。

「まさか、俺じゃない別のセフレのとこ行こうとしてたとか言うんじゃねーだろうな。」

秋吉の顔が近づいてきて、さけることも、よけることも出来ずに固まっていると唇を合わせられた。
キスというより、唇に唇を触れさせているだけ。
このまま喋るだけで、気がおかしくなりそうになる。
そんな状態で、秋吉は唇を動かした。

「仮にお前が誰かに抱かれたとしても、赦すよ。お前にお仕置きという名のセックスを死ぬほど味あわせて、快感でおかしくなるほどに、」

唇が触れたまま喋られて、唇と唇が触れ合う。
こんなことするくらいなら、そのままいつものように乱暴なキスをされた方がよかった。
こんな寸前の、息を吹き込むようにされたら、本当に、気がおかしくなりそうだ。
そんなとき、秋吉は言葉を少し切り、俺の唇を舐めた。

「感じさせて。」

ゆるす、なんて、なんて傲慢な言葉なんだろう。
自分が何を言われているのか、分かるようで分からなくて。
分からないようで、分かってしまう。
所詮この身体は、秋吉だけを覚え込んで、秋吉だけを知っていて、秋吉に翻弄される。
秋吉以外の誰かに拓こうと思ったことも、秋吉以外の誰かに拓かれようと思ったこともない。
この身体が知るのは秋吉だけでいい。
この身体が覚えるのは、秋吉だけでいい。
そんな小さな願いは、想いは、秋吉には知られることなく存在している。
秋吉以外に、なんて、絶対ありえないのに。

秋吉は引っ張っていた俺のネクタイを放すと、俺の腕を掴んで寝室の扉を開けた。
そのままベッドへと投げ飛ばされて、ベッドに倒れ込む。
倒れ込んだ俺の上に覆い被さり、触れるだけのキスをした。
離れては触れて、そんな動作を何回も、何回も。
そして、先ほどと同じように、また唇を舐められた。
一通り気が済んだのか、唇を離して視線を絡める。
このまま絡めていたら、どう考えてもこちらが不利だ。
この熱い眼差しに、勝てたことなんてない。
覚悟を決めて、唇を開いた。

「…じゃ、お前は、誰かを抱いた腕で、」
「お前を抱くのか、…って?」

言いたいことが読まれていたのか、最初から用意していた言葉なのかは分からない。
俺が誰かに抱かれることはゆるさないと言った。
では反対に、お前が誰かを抱くとき、俺はなんと言えばいい。
それともお前は、俺は自分の許可なく抱かれることはゆるさないけれど、自分は誰を抱いてもいい、と、言うのだろうか。
俺は、お前に誰も抱くなと、言えるのだろうか。
言うことが、ゆるされるのだろうか。

「遊んだことがないとは言わない。今までセックスした全員を覚えてるかって言われても怪しい。でも、ちゃんとゴム着けて、避妊してる。」

その言葉に、目を見開いた。
前半はどうでもいい。
前半部分は今までにも聞いたことがあることだ。昔の話だと笑いながら話していたけれど、胸が痛くなりながら聞いたことを今でも覚えている。
だが、問題はそこではない。
問題は、後半の部分だ。
そんなことを考えていると、秋吉は俺のネクタイに手を掛け、一気に引き抜いた。
そして、ワイシャツのボタンに手を掛ける。

「お前、ゴム着けんの?」
「必要があれば、絶対。」
「必要が、ってお前、」
「使ったことないのにとかいうのかよ。」

引っかかった部分を聞いてみる。
考えてみれば、俺との行為でそれを使ったことなどないし、持っているところを見たこともない。

「使う必要ないだろ。」

ばっさりと切り捨てられるかのように言われ、胸が痛んだ。
そう言われれば、女ではない男の俺に使う必要など、ないと言われればないのだけれど。
そんな気持ちが顔に出てしまっていたのだろうか。
秋吉はボタンを外したワイシャツを左右に広げ、俺の身体を見つめた。

「お前が男だからじゃなくて、お前を愛してるから。」

秋吉の逞しい指が俺の素肌を撫ぜる。
その指で、身体を這われたら弱い。そのことを知っている指は、もっとだ。

「お前の中に出すとき、すげーきもちい。いつも溢れるまで中に出すのはきもちくて好きだから。」

秋吉の指が素肌を這い、胸の飾りに辿り着いた。
指の腹で押されては撫でられ、弾かれる。
ふと秋吉の顔を見ると、今から楽しみにしていたプレゼントを開けるような。
サンタさんありがとう、って言ってるような、そんな顔をしている。
そんなときに聞こえてくる秋吉の声と言葉は酔いそうだった。
悪酔いしそうな、そんな癖のある声。

「でも、正直その後の後処理もそれなりに気に入ってんだよね。」

指で胸を弄りながら、秋吉は耳元で少し高めの声を出した。
俺が好きな声。
逆らえない声。
好きで堪らない声。
秋吉のずるいところは、俺がこの声に弱いってことを知っててわざと使ってくること。

「後処理してる最中で我慢できなくなって中出ししちゃうのも、お前を愛してるから。」

その声で、全身の力を無くさせて、抵抗する気も力も無くさせて、そしてお前は、俺の心まで掻き乱すんだろう。
そんな言葉で、そんな声で、そんな表情で、俺を封じ込めて。
お前の口から出てくるその言葉も、言葉さえも、恋い焦がれるほど魅力的なものけど。
秋吉は俺の耳に舌を這わせ、ひと撫で舐めてから耳朶を甘噛みした。
その小さな痛みで、辛うじて言葉を発することが出来た。

「本気で愛してるって言うならゴムくらい着けるだろ。」

言い分を、その言葉の裏付けとなるような言い分を、言ってみればいい。
本当にそう思っているなら、納得出来るように言ってみろ。
秋吉の指に弄られている胸の飾りに少しの意識を向けながら、そう言って見せた。

「それ、後から考えた。」

耳元にあった顔を上げて、俺の顔を見る。
ほら、まただ、その、余裕に満ちたような顔。

「でも、お前さ、中で出されるとすげーきもちいし、感じるだろ。」

そう言いつつ、秋吉は俺のベルトのバックルに手を掛ける。
なんだかんだといいつつも、眼で俺を掴んで離さず、視線を合わせたまま器用にスーツをずらし、その先の欲望を手にした。

「俺がゴムのこと気付いた時って、既にお前が中に出されることを快感に思ってからだったの。」

その欲望を手にした秋吉は、大切なものでも包み込むように持ち、ゆっくりとその欲望に口づけた。
ちゅ、と音が出るかのように先端から根元までキスを降らせ、その付近の二つの袋に舌を這わせ、ゆっくりと舐める。
舌先と舌の表面を使い、丁寧に舐めとってゆく。

「だったら、中に出してやりたいじゃん。」

すると袋から舌を離し、その厚めの唇を欲望の先端に持って行き、口の中へ招き入れた。
舌先で先端の窪みを愛撫し、根元までしっかり咥え込み、往復を繰り返す。
これまでの愛撫で欲望が少なからず反応を示していることが伺える。
その反応が、自分のものであるにも関わらず、憎らしい。
秋吉はそんな俺に気付き、視線を絡めてくる。そして少しだけ反応したその欲望から口を離した。

「こんなに愛してるのに、セフレとか…ありえねーだろ。」

当たり前だろう、と言われるように。
当然だろう、と言われるように。
それを全て許容しろと言われるように。

「お前以外を抱くわけねーじゃん。」

そんな、一生聞けないんじゃないかと思っていたような言葉を投げ掛けられて。
頼むから。
頼むから、これ以上、俺の中を掻き乱さないで。
掻き乱すな。

「で、どうなんだよ。」
「…別に、今日はお前、別の誰かのとこ行くと思ってたし…。…他にセフレとか、いねーし…。」

同意を求められ、素直に思っていたことを言葉に出した。
普段はそんなことを自分から言わないし、催促されても言わない。
それでも、秋吉の言葉を聞いた後だと、素直に言えた。
自分の言葉で、秋吉に伝えることが出来た。

「俺にはお前だけなんだけど、お前は?」

そんな秋吉の言葉にも、素直に答えられる気がした。

「…お前だけ。」

小さく、でもはっきりと言った。
それでも、秋吉は次の言葉を待っていた。
いや、次ではなく、その言葉を改めろと言いたいのだろう。
秋吉は、気付いてる。
気付いていて、それに乗っかってくれていた。
会社では、秋吉と呼び、金橋と呼ばれる。それは、ごくごく自然で、当たり前のこと。
だが、この部屋に入ってからは、そんな呼称は無意味なものとなる。
この部屋に入ってからその呼称を使うなんて愚かなことは、いくらなんでも出来ない。
それを行えば機嫌が最上級に悪くなることも、その後のことに支障が出ることも知っている。
だからこそ、敢えて使わなかった、使えなかった、その呼称。
それに秋吉は気付いていて、だから、同じように返してくれていた。

「………迅矢だけ…。」
「俺も、加弦だけ。」

名前を呼ぶ、たったそれだけの行為なのに、今日初めてのことだ。
秋吉と呼べばこちらが不利になる。それを理解した上で、三人称を使っていたことを、見抜かれていた。
名前を呼んで、お互いに見つめ合う。
秋吉は欲望を掴んだまま、身体を上半身の方へ戻し、そのまま唇に唇を合わせた。
今度は触れるだけではなく、貪るような、いつものキス。
意識が飛びそうになるほどの、強烈な激しいキス。
今日は意識が飛ぶことはないけれど、そのまま逃げられない行為に雪崩れ込むことは分かっていた。
そしてそのまま、秋吉に身を預けた。





「つうか、やっぱそうだったか。」

ピロートークの第一声は迅矢のそんな一言だった。

「やっぱってなに。」

思った通りにそのまま聞いて見ると、煙草に手を伸ばした迅矢が少し拗ねたように言った。

「セフレって思われてたわけね。俺恋人のつもりだったのに、すげーショック。」

そんなことを言われても、思っていたものはしょうがない。
本当に今日は、迅矢は別の誰かと過ごすのだろうと疑いもしなかったし、まさか自分と、なんて微塵も思っていなかった。
逆に言うならば、それほど迅矢を信用していなかったのだろう。
迅矢は一つため息をつき、煙草の灰を灰皿に落とした。

「今までにお前にやったプレゼント覚えてる?」
「ピンキーに、ピアス、ブレスにネックレス?」

ふと過去に貰ったものを挙げてみる。
その贈り物たちは、一体いつ貰ったものだっただろうか。
誕生日なのか、記念日なのか、去年のクリスマスなのか。
考えることも出来なかった。

「全部束縛アイテムなんだけどなぁー。」

そういえば、貰ったものは大体こんな系統のもの。
束縛アイテムだと言われて初めて気付いたが、そういえばこれらは束縛アイテムだ。

「で、今年はこれのつもりだったの。」

そう言われ、迅矢を見るとラッピングされた小さな箱を投げられる。
形状からしてプレゼントだ。
小さいからピンキーかピアス、そんなところだろうか。

「開けていいの?」
「お前へのプレゼントなんだから開けろよ。」

言われるままにラッピングを外し、見えてきたのは小さな箱。
その中の箱を更に開けて、眼を見開いた。

「………これ、」

思わず言葉が漏れる。
それを見た迅矢は、俺の方に手を伸ばした。

「ほら貸せ、嵌めてやっから。」
「…ピンキーなら、前に…、」

戸惑いながら言いどもると迅矢は声を高くした。

「本気で言ってんの?どう見てもピンキーじゃねーじゃん。」

本当に、どうみても、ピンキーじゃない。
ピンキーじゃないけど、じゃあ…。
迅矢は箱から俺がピンキーだと言った指輪を取り出し、俺の左手を手に取った。

「これをお前に贈って、一緒に住もうって言ってやるつもりだったの。」

左手を迅矢に預け、なすがままになっていると、迅矢は薬指にその指輪を嵌めた。
サイズがぴったりで、その薬指で堂々と光っているその指輪と迅矢の言葉は、俺の涙腺を崩壊させるには充分すぎた。

「愛してる、加弦。」

迅矢に腕を引かれ、迅矢の腕の中に収まり、胸の音を聞く。
涙腺が崩壊した俺の眼からは大量の涙しか出てこない。

「俺と、一生生きて。」

これは、なに。
愛の告白?
永遠の誓い?
一生の証明?
ううん、なんでもいい。
どれでも構わない。

「迅矢…、好き。」
「もっと。」
「だいすき。」
「もっと。」
「愛してる。」
「分かってる。」
「離さないで。」
「離してなんて、やらない。」

迅矢に抱きしめられながら、ただ泣くことしか出来ない。
でも、幸せだ。
これ以上ないってくらいに、幸せだ。

「離してやれねーよ、もう。」

その一言で、完全に、落ちた。



2017/06/11 20:38 | 創作BL / 秋吉と金橋

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